W・エンゲージ!!

「こちらλ(ラムダ)隊・・・任務完了・・・これより帰投する」

 その連絡があってから今に二時間が経とうとしていた。

 λ隊は今日未明に敵駐留地爆撃任務のため、このトリスティア基地

から発進した。敵駐留地とはいってもはっきり確認できたわけではな

く、そこに人類文明外の兵器があるとの情報が寄せられていただけで

あるのだがこの任務は情報の真意、また、そうだった場合の偵察も兼

ねている(このときすでに人類文明外の者とコンタクトを試みた後で

尚且つ相手側に明らかなる敵意があると判断されたため今回の爆撃務

が遂行されるに至った)

 任務は確かに遂行できた。

 これよる成果は非常に大きかった。その情報が確かであったこと立

証されたし、敵の新兵器、またその武装などの偵察もできた。

 が、しかし先ほども述べたように任務が完了し、帰投命令を出した

にも関わらず“λ隊”は一向に帰ってくる気配を見せない。

 あの時間では(一度空中給油も行ったが)燃料が心配だ。

 この基地には“エース戦隊”と呼ばれている戦隊が3隊いる。一つ

は基地建造、稼動時から存在するといわれている伝説級のエース部隊

“α”それに続き“λ”そしてつい最近新しく称号を与えられたのが

“ε(エプシロン)”である。

 この3戦隊はこの基地の目玉とも言える。であるから、この一戦隊で

も失えば、年間に支給される本部からの収入も減る。

 といえば難しく聞こえるが、要は“ボーナス削減”というわけだ。

皆はどちらかと言うとそちらを心配していたようだが、上位の者は、そ

こではない、別の部分を心配していた。

「新型機・・・これでは無理ですかねぇ・・・λの適性には目を見張る物があ

ったんですけどねぇ」

 長身の白衣の男がこの基地代表の人物の背後に立つ。白衣の男の眼鏡

に映し出された基地代表の姿は非常に冷静だった。『いや、そうでなく

ては威厳というものが』と白衣は思う。

  どんな職であろうと統轄きる『下』を持つものはどれだけ急いてい

ようが、焦りを感じていようが、それを露にしてはいけないのだ。統轄

する者がそうであっては、下位のもの達の士気が低下するだけでなく、

それ以上の混乱も招きかねないからだ。

 飛躍するが、それを根拠とした上で白衣は彼が焦っていると確信して

いた。

 その彼が、一人のオペレータに呼ばれた。

「マクラーレン少将!!哨戒エリア内に救難信号を発信している機を発見

、エムブレムから察してλ隊に間違いないとのことです!!

 マクラーレンと呼ばれた彼は抑揚の乏しい声でオペレータに聞く。

「機数は?」

 オペレータは少し残念そうな声で『一機』ですと答えた。若いものだ

と白衣は思う。

 マクラーレンは淡々とした口調で部下に指示を出す。白衣にも指示が

出されたが、ここに来る前にすでにその指示はこなしていた。『救護班

の用意などとうの昔に完了しているんですねぇ』と。

 

 

 数分して、空から物体としての容をもたない者を切り裂き飛来する音

が木霊する。それは切り裂かれた気体が悲鳴を上げているような『声』

にも聞こえた。

 救護班はいつでも治療ができるよう、滑走路手前に位置する格納庫に

て待機していた。

 先ほどの白衣も勿論、居る。

 切り裂かれ、悲鳴を上げる気体の叫びはさらに大きく、痛々しさを増

してゆく。だが、このとき白衣が救護班の別働隊に指示を出した。

「別働隊、残念ですが仕事ができそうなんですねぇ・・・多目的救護車の用

意をお願いしますねぇ」と。

 白衣は気付いた。目視ができたわけではないのだがその機首が滑走路

に向いておらず、微かにずれて滑走路から離れた森に向いていることを。

  これにいたっては最早、落下地点を勘で当てるしかない。

 多目的救護車を二台離れたい地に配置しどこに落下しても迅速な対応

を可能にすべきと判断し、白衣は救護車の位置を指示した。

 

                 *

 空が自分の視界で回転し、上下どころか左右の判断もしかねる。

 いや、この状況では判断などという高度な思考も働かない。

まるで箱の中に入れられゆさゆさと激しく揺さぶられているような気分だ

った。そんなこと誰もが経験することではないから非常にわかりにくい

形容の仕方であるがそのような表現しかこの場ではできない。

 やがて外の蒼と白は地に向かいその景色を湿気の帯びた緑に変貌させ

る。

 遅れてきた轟音で聴覚は失われ、視覚も効かなくなる。

 最後に誰かの名前を呼んだが・・・自らも誰を呼んだのかわからぬまま、

ホワイトアウト。

 





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