W・エンゲージ!!
  
空で糧を得るものは、空に果てがあることを知っている。
   それが人類の限界である事も・・・また知っている。

イギリス空軍の戦闘機が領空内を哨戒していたときの事だ・・・。
彼らはいつもと同様に領空内に異常がないかを調べていた。
最初は異常も見られず、今回も無事に終わる事を確信していた。
が、しかし。
  『こ・・も・・・かんた・・・り・・・そうだ・・・・れ?』
  と、かなりノイズのひどい通信が飛び込んできた。送り主は今回
のパートナーである隊員に間違いないのだが、この場所は基本的に
ノイズがひどく出るような所ではなかった。

『おい・・・γ2(ガンマツー)機の通信装置が故障しているようだ・・・
  管制塔・・・おい』
  しかし、彼の機体も通信装置に異常をきたしたようで基地のほうにも連絡が
つかない。
  仕方なく、彼はコックピットからパートナーに合図をし基地に戻るよう指示を出した。

  だが、そこで異常に気付いたのは合図を受けたパートナーだ。
  自分のパートナーである彼の機体に接近するなんらかの物体を目視で確認したのだ。
『あれは・・・?』
  とHUD(ヘッドアップディスプレィ)に目をやった次の瞬間。
  空にパートナーの機影はなく、代わりに黒い爆炎の華が宙に現れた。
  『!!』
それは紛れもなく戦友の敗北、そして死を示す何よりの証拠であった。
  戦友の命を絶った物体は未だそこにとどまり在った。
かれは心の中で何度もこう叫んだ。
  『あれはなんだ』と。
あまりに異形であるその姿は彼を凍りつかせもはや抵抗をすることどころか機体の操縦すら忘れていた。
  その容は昆虫と呼ぶのであればそれに最も近い形状をしているだろう。だが、そのような自然的ではない、あきらかに人工的であり限りなく無機質だ。
  それは暫く羽根をばたつかせ強風をあたりに撒き散らしながら、彼と飛行を続けていた。
それから徐々に高度が下がり、雲を抜ける瞬間その異形の兵器は忽然と姿を消した。
あたかも、それが幻想であったかのように。
悪い夢でも見たのかともう一度パートナーに通信を入れるが、つながらない通信が現実であると何より告げていた。
それから、彼は基地に戻った後今回のことを同僚に、上官に伝えてまわった。
勿論とも言っていいほど信用する人間など殆ど居なかった。
だが、信じないものは今回の出撃で映しつづけていた映像を見ると皆黙った。
上官だけは『仲間殺しを隠すためではないか?』との疑念を持っていたが、加工映像でないことは後の調べですぐに判明した。
その後は大変だった。
報道規制を敷かねば国民がパニックに陥る可能性も無いとは言えない。
ならば規制するしかなく、今の軍力で倒せる程度のものなのか、交渉の余地はないのかなど、沢山の問題または提案が挙げられた。
その後の機密会議等を通じ交渉に踏み切る事になったのだが、それには多くの時間、人員、資金がかかることとなった。
"ファースト・エンゲージ"から約一年と三ヵ月後、二回の交渉を試みたが相手は姿を見せる事も無くこちらに無残な爪あとだけを残し去っていった。
そのことを受けて、国連は対策本部を設置。
(異星体であるとは断言できないため)"異文明体"と呼称し国連の掲げた旗の下
に世界軍力を終結させようとした。
  しかし、この旗の下に集まったのはアメリカ、その同盟国である日本、EU諸国の少数・・・
それほどの戦力しか世界からは提供されなかった。
そのため、国連は国際条約に"異文明体の殲滅に関する事項"という項目を追加し、彼らに対しての防衛作を創り出した。
 
―これが、この世界の現時点の状況である。


W・エンゲージ!!―序―終。


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