混ぜ込みストーリー:第四話『信じていたモノが失われたこと』

通路の先にはかなり広いフロアがあり、そこにソレは居ました。
その体躯は本来からはかけ離れた醜い姿と成り果て、原形をとどめていませんでした。
レトナは哀れむような目で見やり、言いました。
「元・四天王直轄部下・ユグヌトゥス・・・」
外見では判断出来ませんが、レトナはかつてソレと一戦を交えたことがあったので気配で分かりました。
「あーあー、お食事中失礼するぜ。まったく」
部屋には食べ残しのような肉片が散らばっており、
元は食料などが蓄えてあったと思われる壷や棚の残骸もありました。
その部屋の一番奥にユグヌトゥスが鎮座しており、その両脇に数人の堕天使が膝を突いて座っていました。
「見てられない・・・な・・・」
マサルが苦々しい顔をしつつ言いました。
「元はね、コイツって結構格好いい優男だったんだけどさぁ、
 何か無駄にでかい化け物になっちゃって、まったく・・・
 魔王に忠実だっただけにそれが居なくなって相当ショックだったんだろうね
 それ以来食って食って食いまくってます!って感じかな?」
レトナがヘラヘラと言いました。
そう話している間に、バリボリと音を立ててユグヌトゥスの『食事』が終わりました。
「倒しちゃっていいんだよなぁ?」
Yoshiokaがめんどくさそうに尋ねました。
「いいんだけど・・・一応、話・・・してみる」
「あぃあぃ、あんたまで食われないようにな」
そう言ってYoshiokaは壁にもたれかかって腕組みをし、完全に待機モードです。
シレイは部屋に入ってからピクリとも動かず膝を震わせているだけです。
マサルはそんなシレイの肩を抱き、小さく大丈夫と声をかけました。

「さーってと、覚えてる?優男ー?」
ユグヌトゥスにつかつかと歩み寄りながら半ば諦めている感じで尋ねてみました。
全身が腫れ上がったでは済まされないほど変形し、
翼は腐敗して千切れ落ち、
目も片方腐っていて、
食べることに特化したかのような大口だけがやたら目立ちます。
「返事無し・・・っと。しゃべり方も忘れたのかねーぇ」
「・・・誰かと思えば・・・」
「ん?」
ユグヌトゥスは口の端だけピクピクさせるような動きで返事を返してきました。
「おんや、まだ喋れたのね、ヨカッタヨカッタ」
軽く笑い飛ばしながら肩・・・では無く腰と思われる場所をペチペチ叩きます。
ただの贅肉。ただの脂肪。ただの肉塊。
叩くとブヨブヨ揺れました。それにはレトナも苦笑いしました。
「成敗しに来てやったぞー?」

ブゥンッ!ガッ!

「おっと」
ユグヌトゥスは肥大した腕でなぎ払おうとしましたが、なにぶん動きが鈍く、
挙げ句、反動で腕を壁に打ちつけました。
「大人しく魔王と一緒に平和の道を歩めば良かっただろうに。バカだねぇ」
「黙れっ!」
「いやいや、魔王討伐第一人者としては黙ってられないよ」
「お前さえ、お前さえ居なければ!」
「そりゃ私の父さんと母さんでも恨んでよ。もう死んでるけどさ」
「お前に分かるわけが無い!私は信じていたんだ!」
「そうかいそうかい」
レトナは全く持って真面目に受け答えするつもりは無く、適当に流していました。
「やはり、あの時お前に情けを受けて生き残るべきでは無かった・・・」
「んー、そうだっけか?」
そう言いつつ、少し昔のことを思い出すと、レトナはとどめを刺さなかったことを思い出しました。
「あー、そういえばそうだね。ってゆーか何?あの時討ち死にした方が良かったって?」
「・・・お前の軽はずみな考えで私はこうして苦しんでいるのだ・・・」
「は?何言っての?あんたが下らないプライドだか何だか分かんないけど、
 それのために醜く生き残ってるだけじゃん?悔しかったら自決しやがれ糞野郎」
「・・・」
レトナはふんと鼻で笑い、軽く剣を構えました。
「私だってね、そうそう軽い気持ちでアレコレしたつもりは無いんだけどねぇ」
「私は生まれた時から魔王陛下の為に生き、戦い、そして朽ちるのが役目と教え込まれてきた・・・」
ユグヌトゥス形は悪くとも尖った爪で己の手のひらを貫かんばかりに握りしめました。
「その為に生きてきたのだ!今となっても戦うことを捨てて成るものか!」
ユグヌトゥスは叫び、立ち上がりました。

「な、何だ・・・この気迫・・・」
マサルは脂汗を流しつつその光景を見ていました。
レトナの身長の5倍はあろうその異形が、
未だかつて感じたことの無いほどの負と殺意のオーラを放っていました。
「っ!」

ヴュン!!

「っく・・・」
周りに居た堕天使達も思い思いの武器を手に取り、息を荒げて襲いかかってきます。
「くっ、シレイちゃん、無理せず逃げていいからね」
そう言いつつマサルは剣を構え、周囲を取り囲む堕天使兵と対峙しました。

「んー・・・」
ボーっとしていたYoshiokaはいつの間にか3体の堕天使兵に囲まれていました。
「ああ、始まったのか」
そう言うとめんどくさそうに二振りの刃をどこからか取り出し、構えました。
「一分で上等だろ?」
誰に言うでもなく、独り言のようにそう言って背後の壁を駆け上がりました。

「オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ー!!」
ユグヌトゥスはその体躯に似合わないほどの機敏な動きでレトナを攻撃しますが、
それでもレトナの身軽さには及ばず、かすりもしません。
が、レトナもレトナで分厚い肉の壁相手に少々手こずっていました。
その時、
「ヴァークエンベレト!」

ゴバアアアアンン!

ユグヌトゥスは超爆の闇魔法を瞬時に唱え、レトナに的中させました。
「っつあああぁぁぁ!!」

「レ、レトナ!」
乱戦を遠巻きに見ていたシレイはレトナが魔法の直撃を受けたのを見てすぐに駆け出しました。
が、
「きゃっ?!」
目の前には槍を持った堕天使兵が立ちふさがりました。
「ア゛ア゛ア゛ー!」
そして襲いかかってきました。
肉弾戦は専門外であるシレイはどうすることも出来ず、その場にしゃがみ込みました。

ガキィン!バシュッ!

「イ゛ア゛ア゛ァァァァァ!!!」

「え?え?」
次の瞬間には刃の折れる音と何かが裂けるような音がして、
目の前には弐刀を構えるアサシン、Yoshiokaが立っていました。
「返り血を浴びないようにするってのも案外面倒なんだぜ?」
おどけたように言いつつ、首の裂けている堕天使兵を蹴り飛ばしました。
「さ、俺じゃ彼奴は相手出来そうに無いからな、行ってやりな」
「あ、は、はい!」
シレイは再び駆け出しました。
「・・・2分かかっちまったな・・・ちっ」
Yoshiokaは不満そうに言いつつ、また壁にもたれかかって腕組みをしました。

「燕翔珀裂斬!」

ゴバァァン!!ジャッ!

「ふぅ」
マサルは最後の一体を得意技で片づけました。
琥珀色の閃光を纏いながら敵を一閃する剣技で、3割かっこつけですが強力な技です。
「残るは彼奴だけか・・・」
マサルは剣を構えましたが、
「やめとけって」
「え?」
「あんな肉野郎にそんじょそこいらの剣でダメージ与えられるわけ無いだろ」
Yoshiokaが止めに入りました。ただし壁にもたれかかったままで。
「それじゃ俺らはどうするんだよ?!」
「まぁ、見ろって」
「え?・・・あ・・・」
Yoshiokaが来た道を指さしました、
その方向には恐らく食料調達から戻ってきたと思われる堕天使兵達が
既にこちらの事に気が付いていると言わんばかりに武器を構えて突進してくるのが見えました。
「俺らは雑魚掃討って訳かぁ」
「まぁ・・・文武相応というか何というか・・・」
「哀しいよねぇ」
「だなぁ」
男二人はとほほと呟きながら剣を構え、待ちかまえました。

「ヒール!」
シレイはレトナに治癒魔法をかけます。
「はあぁぁぁぁぁぁ!」

ジャッ!バァン!

レトナがユグヌトゥスを切り裂くと同時に小爆発が発生しました。
これはレトナの愛剣、「マーヴァ・エクス」に込められた闘志が爆発するという仕組みで、
傷をより深くするという強力な効果を秘めています。
更に、レトナは先程から同じ場所を攻撃し続けたため、ユグヌトゥスは流石に弱ってきました。
「お、の、れぇぇぇぇぇぇああああああああ!!」
「?!」
ユグヌトゥスは今まで堕天使達を補食して魔力を蓄えていたせいか、
レトナの予想を遙かに超えた強力な魔力で無数の闇色の弾を空間上に浮かび上がらせました。
「ちぃっ!」
そして、レトナがそれらをかわそうとした時、ユグヌトゥスがニヤリと笑ったのが見え、
しまったと思った時には、

ヴュンヴュンヴュンヴュンヴュン!!!

「シレイー!!!!」


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