「んー、おいしー♪あ、おばちゃーん、ラーメンおかわりねー」


腰まで伸びたピンク色の髪に、十字架をデザインしたヘアバンド。
胸を覆う服にも、これまた十字架がデザインされている。
やたらと小さいショートパンツ(棒人間用)のベルトからも、銀の十字架がぶら下がっていた。

浅黒く、棒のように細い胴と四肢を見れば、彼女が棒人間族であることがわかる。
彼女の名はスレイ。数少ない女性の棒人間だ。


「・・・良く食べるね、スレイさん・・・」

呆れ顔でスレイを眺めるのは、『イッシー温泉』の看板娘こと、ロッテである。
それもそのはず、自分の昼食の軽く10倍はあろうかという量の料理が、もの凄いスピードでスレイの腹
の中に消えていくのだから。

「食欲の秋なんだもん、そりゃ食べたくなるよ。あ、ロッテちゃん、それいらないの?ちょーだい♪」


「そこまで食っといて、まだ人のオカズに手ェ出すか!?」

ガバッ、とスレイの箸から自分のお皿を防衛する。好きなものは最後に食べるのがロッテ流だ。


「でもスレイさん、そんなに食べて大丈夫なんですか?」

「ん?大丈夫・・・って、何が?」

箸を口に咥えたまま、きょとんとするスレイ。彼女は自分のしていることがわかっていないようだ。
盛大な溜め息をつきながらロッテは呟いた。

「その・・・太るとか・・・」

「えっ!?あ、あたし、太ってる?」

ショックだったのか、スレイはポロリと箸を落とす。

「んー・・・・顔がちょっと丸いかなぁ?あと、ウエストもなんか肉ついてきたような・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

数ヶ月前は、スレイのウエストには立派なくびれがあったのだが、最近はホントに棒みたいな直線にな
っている。
顔はもともと丸かったが、なんとなく頬が膨れたような感じもする。

「・・・・スレイさん、心配なら体重測ります?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そうする」

スレイはやっとのことで喉からそのセリフを搾り出した。
一瞬のうちに食欲が無くなり、白い顔は青白く変色している。

「ごちそうさま・・・・・」

「あら?スレイちゃん、もういいのかい?」

厨房からおばちゃんの声が飛ぶ。


「もうって・・・いつもはどのくらい食べてるんですか・・・・」

無言で自分が座っていたテーブルを指さす。

「アレの・・・・・・2倍くらい」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ロッテはもう、何も言えなかった。















「えーっと・・・じゃあ、この台にそっと足乗せてくださいねー」

ゴロゴロ、と大きな体重計を押して現れたのは、医療部に所属するアキである。
一見すると女の子のようだが、れっきとした男だ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

スレイはさっきから一言も言葉を発しない。
その表情も、まるで負け戦を覚悟した武将のように深刻だ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・よし!」


意を決して、体重計の上に片足を乗せた途端・・・・・・。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


体重計はぐしゃぐしゃにひしゃげ、スレイが足を乗せた場所はクレーターのようにへこむ。
数値を指すはずの針はバネとともに飛び出し、異常な方向を向いている。

「・・・・・・・・・ねえ、ロッテちゃん、アキちゃん」

「は、はい?」


「・・・・・この体重計、壊れてるよ」

「「オメーが壊したんだろーが!!!」」


二人で見事にツッコミがハモッた。













「え〜っとですね・・・結論からいいますと・・・・・・・」


スレイ、ロッテ、アキの三人は、万華鏡のビルの外に、神妙な面持ちで立っていた。
アキはなぜか竹刀を持っている。

「ものすごく、ヤバイです。体重はゆうに300キロを超えているでしょうね・・・」

「そりゃ、あれだけ毎日食べてればね・・・太っているように見えないからわからなかったけど・・・


ロッテは、ちらりと魂の抜けたような顔のスレイを見る。
白い顔はいまや雪のように真っ白になり、目は死んだ魚同然の色になっている。

「・・・・・・・じゃ、じゃあ・・・・あたし、これからどうすれば・・・」

「決まってるでしょう!ダイエットです!!」

「わ!?」

バシーン、と竹刀で地面を叩き、アキは大声を出す。


「ダイエットの基本は、1に運動、2に運動!3、4も運動で、5も運動です!」

「ぜっ、全部運動じゃん!食べるっていう選択肢は!?」

「ありません。絶食です」

「えぇーーーーーーーーーーーー!!」

スレイは思わず絶叫する。
彼女にとって『絶食』とは、この世から太陽の光をなくすことと同じだ。

「イヤ!絶食だけはイヤァァァァ!!絶対死ぬ!100%死ぬぅぅぅ!!」

「スレイさん、太ってるほうが寿命を短くするもんだよ?」

「そーです。人は何か食べなくても、2週間は生きていられるんですよー」

「知るか、そんなん!!って、どこ連れてく気!?イヤ、誰か!ヘルプミーーー!!」

ずるずると二人に引きずられ、スレイは街中へと姿を消した。



こうして、スレイの過酷なダイエットが始まったのである・・・・・・。



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