T a r o t W o r l d






3st  『悪魔と祐樹』










「ふあぁ〜〜〜・・・・・・」

祐樹は大きな欠伸をする。
明日あたりにはメリアドに着くだろうとルアが言っていた。

「なんかこの世界に来てから歩きっぱなしだなぁ・・・・体も痛いし・・・・」

そもそも、メリアドとか言う街に行って何をするつもりなのだろう?

「・・・・・強力な武器でも売ってるとか?いや、そんなのあるわけないか。ゲームじゃないんだから」


祐樹はチラリと横を見る。

「くー・・・くー・・・ムニャムニャ・・・・」

「すーすー・・・・・」

ルアとユキが、気持ち良さそうに寝息を立てていた。ルアはお腹丸出しだったが。

「・・・・もっとマシな寝方、できないのかなぁ?」

年頃の女の子というのは、男の子に自分を良く見て貰おうとするものだが・・・ルアはそんなモンは考えたこともないようだった。


「・・・・・ん?」

少し離れたところで、何かがキラリと光った。

「何だろ・・・?」


祐樹はその光る物の所へ近づくと、それを拾い上げた。

「・・・・・・水晶玉?」

拳ほどの大きさの水晶玉が、太陽の光を受けて光っていた。
水晶玉は、こんな所に落ちているにも関わらず、キズ一つついていなかった。

「何でこんな所に水晶玉が落ちてるんだろ・・・・・わっ!?」


ボンッ!!!


水晶玉が爆発した・・・ように見えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

祐樹は恐る恐る目を開けると、煙の中に一人の少女が立っていた。

すっきりと整った顔立ちに、腰まで伸びた長い黒髪、露出の多い踊り子みたいな服を着ている。
女の子は、青い目で祐樹を見ると、ニヤッと笑った。

「はーい、呼ばれて飛びでてじゃじゃじゃじゃ〜ん。さあ、少年、アタシに願い事を言ってごらん!」

「・・・・・え?あ、あえ?」

「んー?あ、そうかそうか。アタシは『悪魔(デビル)』のラル。水晶玉を拾った人の願いを三つだけかなえてあげるのが仕事なの」

「・・・・・ね、願い事ぉ?」

「そう!あなたが払う魂の数に応じて願い事ができるの!」

「タマシイ?たましいって・・・・あの、こんな、尾を引いて飛ぶアレのこと?」

「んー、まあそんなトコかな?」

「そ、そんなの払えないよ!人の命なんだろ?たましいって!」

そんな祐樹を見て、ラルは甘い声で囁く。

「大丈夫よ〜。一人か二人の魂なんてぇ〜・・・・。それにぃ〜、どんな人の魂でもいいのよ〜・・・・」








「キミにひどい事したヤツの魂とか〜・・・・・・」








「う〜ん・・・・・」

確かに一人か二人の魂なんて大丈夫かもしれない。人はいつか死ぬわっていう名ゼリフもあるし。

祐樹の頭の中に、そんな危険思想が渦巻いていた。

「・・・・・・払う魂の数に応じてって言ってたけど、具体的にはどんなの?」

「はい、それはこれを見てね」

ラルはぴら、と小さな字がびっしりと書かれている紙を取り出すと、祐樹の目の前に突き出した。


『魂20個 一般的な願い(お金を出す、食べ物を出す等)』

『魂50個 人を殺せる願い』

『魂100個 国一つを滅ぼせる願い』



こんな感じの願い事が、びっしりと書かれている。
紙の一番下には、こんな願いが書かれていた。





『魂5000個 不老不死』




「じゃあコレ!不老不死の願い!!」

「え〜?コレ叶えようって人、結構少ないのよ?キミに魂5000個も用意できる?」

「大丈夫さ・・・・・一人か二人の魂なんて、どうって事ないんだろ?」


「・・・・・・・まいどありぃ♪」


ラルの目が怪しく光ったのに、祐樹は気付かなかった。


「そうだなぁ・・・・あ!じゃあまず、コウイチとジュンとケンタの魂!」

「ハイハイ、コウイチくんとジュンくんとケンタくんと・・・・・・」

ラルは祐樹が言った人物の名を手帳に書き留めていく。
ちなみに、コウイチとジュンとケンタというのは、祐樹が中学の時に、祐樹にパシリをやらせていた先輩の名だ。

「次は・・・僕の通っていた小学校と中学校の生徒と教職員全員の魂!!」

「はいはい・・・・・」
















――――3時間後――――
















「あと何人?」

「あとはねぇー・・・・・うん、一人の魂で5000になるよ」

「う〜ん・・・・・後はどうしようか・・・・・・」


思いつく限りの魂はもう言っちゃったし・・・・・・。



「祐樹クン、まだ魂が残ってるじゃない」

「え?そうかなぁ?」

「うん!あるある☆」

「どこに?」























「アタシの目の前に」

























「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!?」


ラルが祐樹の胸に手を当てると、まるで心臓が凍りつくような感覚を覚えた。


「が・・・・な、何を・・・・・・・!?」

祐樹は苦しげに表情を歪めてラルの顔を見るが、ラルの顔からはあの人なつっこい笑みは消えていた。
その代わり、人形のように冷たく、感情のない表情をしていた。


「ふふふふ・・・・・やっぱりタロットの護り手と言っても子供ね・・・・」

「!?」

「キミは悪魔に誘惑されたのよ。織原祐樹クン?『何でも願いが叶う』というエサに釣られて、人の心を失ってしまったの」

すると、祐樹の胸から、大きな水晶が出てきた。
だが、その水晶はどす黒く変色し、中心にモヤのような物が見えた。

「これがキミの魂。見て、こんなに汚くなっちゃってる・・・。自分の欲を叶えるために、何人もの命を犠牲にした、穢れた汚い魂」

「・・・・・・そ・・・・そん・・・・な・・・・・」

祐樹は初めて気付いた。自分は悪魔に騙されたのだと。


「あ、そうそう・・・キミが払った魂だけど、あれはもう戻すことはできないよ。・・・・何でって?」



ラルはほとんど動けなくなった祐樹の魂に耳を近づけると、こう囁いた。





















「アタシがみーんな食べちゃった。ごちそうさま、人の命を何とも思わない勇者くん。バカみたいにアタシのお腹をいっぱいにしてくれて」






















「せっかくだから、アタシも願いを叶えてあげる。不老不死になろう。アタシと同じ悪魔になれば、世界の終わりがくるまで生きられる・・・・・・」





祐樹は何かを言おうと思ったが、口が動かない。
体も・・・・・・手も、足も動かない。


これからどうなるんだろう?


そんな呟きが、祐樹の頭の中で聞こえたが、すぐに消えてしまった・・・・・・。


















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タロットカード紹介



『悪魔』 デビル


タロットで15番目のカード。

『堕落』 『悪い誘惑』 『理性を失う』を意味する。


ラルの暗示するカード。


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