『T a r o t  W o r l d』



2st 『死神の魂』











魔王を倒すべく、旅に出た祐樹とルア。

広い広い平原を何時間も歩き続けたが、メリアドはいっこうに見えてこない。

そして、祐樹の疲れはもはや限界に達していた。


「・・・・ぜはー・・・・ぜはー・・・・。も、もうダメ。動けん・・・・・」

「ホンット根性ないねー。仕方ない、今日はここで野宿だね」


ルアはその辺にあった木の側に座ると、どこからか大きな皮袋を取り出した。

「・・・・何それ?」
「ん?食料。でもあんまり食べないでよ。少ししか持ってきてないから」

ルアは皮袋の中に手を突っ込むと、何かを取り出し始めた。

「えーっと、干し肉でしょー、干し肉に、干し肉と、干し肉、あと干し肉とかいろいろ干し肉とか・・・」
「干し肉ばっか・・・・」


祐樹は目の前に置かれた干し肉の山を見ながら溜め息をつく。

「はぁー・・・やれやれ・・・・」
「食べないの?」

「ああ、ちょっと食欲がないんだ・・・・・」
「んじゃいただきー」

見かけの割に、よく食べる娘だな・・・・。

「・・・・もう寝る」
「明日は早いからねー」
「あぁわかったわかった・・・・・」



祐樹はゴロンと寝転がると、目を閉じた。















「んん〜・・・・?」

祐樹は目を覚ました。

目をこすりながら隣を見ると、ルアがすやすやと寝息を立てていた。

「・・・・・全く、明日は早いとか言ってたクセに・・・・」


祐樹はトントンと肩を叩く。

・・・・・なんだかものすごく肩が重い。

おかしいな・・・・。
今までこんな事はなかったのに・・・。






まるで、誰かが乗っているみたいな・・・・・。







いや、本当に誰かが乗っていた。




「あ、やっと起きましたね?」

「なッ!?」


見上げると、女の子が宙に浮いて祐樹を見下ろしていた。


銀色の長髪、兎のように真っ赤な瞳・・・・・。
真っ黒いフード付きのマントを身に纏い、自分の身長程もある巨大な鎌を手にしている。

女の子は懐から、黒い手帳のような物を取り出し、書いてある文章を読み始めた。


「ふむふむ・・・・織原祐樹さん。職業は学生。年齢15歳。誕生日は12月25日・・・・あら、クリスマスに生まれるなんてロマンチックですね〜」


「な、何だ?誰なんだ君は・・・?」
「あ、申し遅れました。私、『死神』(デス)のカードを暗示する、ユキと申します」


「デス・・・・?」

「そう、『デス』は、死期が来た人の魂を霊界へといざなう事を生業としているんです」
「ふ〜ん・・・で、そのデスとやらが僕に何か用?」


「そりゃ決まってるでしょー」

ユキは、巨大な鎌を振り上げるとこう言った。




「アナタを、迎えに来ました!!」



ドガァッ!!


「おわっ!!」

ユキの振り下ろした鎌が地面に突き刺さる。
祐樹はとっさに身をかわしたが、もし喰らっていたら、ただでは済まないことは確かである。


「ああ〜、よけちゃダメですよ〜!おとなしく死んで下さい!!」
「・・・・マジかよオイ・・・・」


くるり、とユキに背を向けると、全速力でダッシュした。
本能が逃げろと告げている。


「あっ!どこ行くんですか〜!!」

ユキも追いかけてくる。

「ゆうきさーん!!待ってくださーい!!チクッてするの一瞬だけですからー!!!」


「その鎌で『チク』は無いだろ!『ザクリ』だろ『ザクリ』!!」

祐樹は後ろを見もせずに走る。


ヒュン!!


祐樹の側を、風のような物が通り過ぎた、と思った直後。

バキッ!!

「げふっ!」

祐樹は真正面から何かに殴られ、後ろに吹っ飛んだ。

「祐樹さん、逃げられませんよ〜♪」
「・・・・・マジで」

自分の方がユキよりも遥かに前にいたのに、ユキは一瞬で祐樹の前に立ちはだかったのだ。

「・・・・・・さあ、覚悟を決めて下さいね〜」
「あうあうあうあうあうあう・・・・」

祐樹は何か言おうと口をパクパクと動かすが、何も言えないようだった。

「さあ、一緒に逝きましょう!大丈夫、アナタは天国に行けますよ!」
「ひいいいぃぃ――――――ッ!!」

ユキが、大鎌を振り下ろそうとした時、


ゴンッ・・・・・。


「はうっ・・・・」


小さな声とともに、ばたん、という何かが倒れる音が聞こえてきた。
恐る恐る目を開けると、ユキが目の前に倒れていた。

ユキの側には、大きな石が転がっている。

「祐樹君っ!生きてる?」

聞き覚えのある声がした。前を見ると、ルアがこっちに走ってくる。
どうやら、ルアがユキに石を投げつけたらしい。


「あう〜・・・・いたたたた・・・・・・」

ユキがのそりと立ち上がる。

「ひどいじゃないですか!いきなり石を投げつけるなんて!仕事のジャマをしないで下さいっ!」
「何が仕事よ!祐樹君はね、魔王をやっつける勇者様なんだから、こんなトコで死ぬワケにはいかないの!!」

「はっ、それ本気で言ってるんですか?彼みたいなへなちょこ高校生が魔王とまともに戦えるわけないでしょう!」
「今はへなちょこでもそのうち強くなるの!・・・・まあ確かにちょっと頼りないけど・・・・・」

「ちっ、どうせ僕はへなちょこの弱虫ですよ〜だ・・・・・」

ヘナチョコ呼ばわりされていじけている祐樹を無視して、ユキはルアをビシッ、と指差す。

「え〜っと、『愚者』のルアさん・・・・・。アナタは84歳まで生きる運命にありますが、仕事のジャマをするんでしたらアナタも霊界に連れてっちゃいますよ?」

「バカなチチナシ小娘だこと!できるもんならやってみなさいよ!ば〜〜〜か!」
「じょ、じょーとーですっ!もう今すぐ殺しちゃいますから!」

チチナシ呼ばわりされて怒ったユキが、ルアに斬りかかる。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇ――――――っ!!」

ユキは凄いスピードで大鎌を振り回すが、ルアはいとも簡単にそれをかわす。

「やみくもに振り回してるだけじゃ、当たんないわよ!」

ルアは、腕を振り上げる。
すると、ルアの腕の周りに、風のようなものが集まり始めた。

「いっけ――――っ!」
ルアが腕を振り下ろすと、三日月型の風が何本も飛んで行く。

「え・・・・?きゃあっ!」
風がユキに直撃し、ユキは何メートルも遠くへ吹っ飛ばされる。

「これが実力の差ってヤツよ。さ、祐樹君、出発しよ」
「え?あ、うん」

ルアは何事もなかったかのように歩き出す。

「・・・・・待ってください」

「!?」

後ろを振り向くと、ユキが立ち上がっていた。
ユキのマントは、ところどころ破れ、血が滲んでいるが大したダメージにはなっていないようだ。

「・・・・・まだやる気?」

「いえ、アナタ達と戦う気はもうありません。・・・・・実は、お願いがあるんです」
「お願い?」

「はい。さっき、魔王と戦うと仰っていましたが・・・・私も、一緒に連れて行ってくれませんか?」
「ええっ!?」

「実は私、死神になったばかりなんで、修行の為に人間界に来たんですけど・・・・」

ユキはここで目を潤ませて、涙声になりながらこう言った。

「昨日ここに来たばっかりなんで、行くあてがないんです〜!!お願いします!一緒に連れて行ってください!何でもしますから〜!!しくしく・・・・」

ユキはそれだけ言うと、泣き出してしまった。なかなか情けない死神である。

「・・・・・どうする?祐樹君?」
「う〜〜〜〜〜〜ん・・・・・」

祐樹は目の前で泣いているユキを見ながら、思案していた。

(・・・・・連れて行くって言ってもなぁ・・・・いきなり襲い掛かってきたし・・・・でもなんだか大変そうだしな・・・・それに断ったらそれこそ何されるかわからないし・・・・)


「・・・・まあ、少しくらいなら・・・・・いい、かな?」

祐樹が少し、ほんの少しだけ肯定的なことを言うと、ユキは表情を一変させる。
「ホントに!?ホントに私、ずっとついて行ってもいいんですか!?わーい、ありがとう祐樹さーん!」

ユキは子供のようにぴょんぴょん跳ね回りながら喜んでいる。

「ちょ、ちょっと待て!僕が言ったのは少しだけだ!ずっとじゃない!!」
「わーいわーい!本当にありがとう祐樹さーん!!

「・・・・・・はぁ〜・・・・また変なのが・・・」

ルアの呟きも、ユキには全く聞こえていないようだった。


・・・・・こうして、『死神』のユキが仲間に加わったが、これから後にもさらに、個性的すぎる仲間が増えていくということを、祐樹はまだ知らない・・・・・・。






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 タロットカード紹介



『死神』 デス


タロットで13番目のカード。

『死』『停止』『終わり』を意味する。


ユキの暗示するカード。


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