CHRNO ETERNAL
クロノエターナル

番外編

「LILITH」

 

 

 

 


暗い鉄の臭いが漂う部屋で私は目を覚ました。
全身にはコードが繋がれており斜めに立っているベットに寝かされている。
彼女はコードを引き抜き、自分の足で地面に立つ。
周りを見渡す。
周囲には大量のコンピューターなどが置かれており稼動している。
するとその機械と機械との間に1人の老人の姿があった。
しわしわの白衣に裾が切れているズボン。
体は骨に皮がついただけのような細い体だった。


「起きたかリリス」


静かな声で老人が言う。
彼女―――リリスはそれを自分の名だと理解し「リリス・・・」と何度か小さく連呼した。
それを見た老人は小さく笑い、壁に掛けてあったものを取り少女に投げた。


「お前の服だ、さすがにその格好ではまずいからの」

「?」


何がまずいのかは分からないが取り合えずこれを着たほうがいいらしい。
そう思いリリスは受け取った服に袖を通す。
実際は彼女が裸体だったために老人がした配慮だと言う事をリリスは全く理解していない。
服はグレーにブルーのラインが入ったもので少女の体格にぴったりフィットした。


「ま、まずはこっちに来い」


そう言って連れてこられたのは射撃場だった。
レーンは1つで置くにターゲットのが吊るされている。
手前の台にはすでに拳銃が置いてあり何をさせたいは大まか理解できた。
以外に大きく、重量は通常の拳銃の倍といったところだ。
それを片手で持ち上げターゲットへ向けると視界内に十字のマークが現れ標準を合わす。
標準の十字が赤く輝くと同時にトリガーを引いた。
閃光が走りものすごい弾速で放たれた弾丸はターゲットを貫通し後部の壁に減り込んだ。
さらに続けてトリガーを引く。
今度はもう少し力を抜いて、やや右側へ。


「・・・・・・」


全ての弾丸を撃ち終わるとマガジンを外し台の壁に掛けてあったマガジンを装填、すぐにまた撃ち始めようとする。
だが、老人はそれを黙って止めさせ台に設置されたボタンでターゲットを近づける。
老人はそれを手に取り表面を見つめる。
紙には中央とその1センチ横に穴が空いておりそれ以外は何も無い。
疑問に思った老人にリリスはそっけなく答えた。


「初弾の着弾ポイントがずれていたのでシステムを再調整しました」

「ほぉ〜、なるほどなるほど」


老人はうれしいのか口元が笑っていた。
実はワザとリリスの標準システムをずらしていたのだ。
彼女が持っているのは「レールガン」と呼ばれる武器の小型版で、電流の流れるレールの間に弾丸を撃ち込む事によって加速・射出させる兵器だ。
人間用に開発されたのだが反動が大きすぎるなどの問題で実用化されなかったものだ。
標準システムのミスチェックの早さ、レールガンの反動への対応・・・どうやらリリスは予想以上の出来らしい。


「次へ行くぞ」


老人はまた別の部屋に彼女を連れて行った。
広い部屋だった。
50メートル四方の鉄製の壁に囲まれた部屋。
その中央に大型の人型兵器が待機していた。
リリスは老人が言う前に前へ出て人型兵器を見る。
大型の腕を持ち、全身には多量の火器を装備している。
肩には【TITAN】のマスキングが施されている。
彼女が来るとそうするように命じられていたのか巨人は起動し前へ立ち塞がった。


「―――ターゲット確認―――タダチニ破壊スル―――」


【TITAN】が動いた。
巨大な豪腕はその大きさからは想像も出来ない速さで動きリリスを狙う。
だが彼女はそれをステップで回避し相手の側面に回る。
手には先程射撃場で握ったレールガンが握られておりトリガーを引く。
疾風の如く放たれた弾丸は巨人の装甲を叩きよからぬ方向へ跳ねる。
装甲は凹んだのだがダメージにはなっていない。


「―――!!!」


【TITAN】の肩アーマーがスライドし鋼の砲座が姿を表す。
勢い良く回転しだしたバルカン砲は敵を捉え銃撃を開始した。
リリスはすぐに地面を蹴り舞うように弾丸の嵐を回避する。
だが、巨人はその回避ポイントを先読みし豪腕で彼女を捕らえる。
豪腕に掴まれた体はミシミシと悲鳴を上げ軋んで行く。
そんな中で彼女は状況を確認し解決策を導き出す。


「―――腕部ハッチ開放―――赤外線ミサイル発射―――」


【TITAN】の豪腕の隙間から小型ミサイルが飛び出し彼の肩に命中した。
爆煙に包まれると同時に豪腕の束縛も緩みリリスは楽々抜け出す。
地面に脚を付き豪腕の攻撃範囲まで逃げると左腕から噴出す煙を解き腕を冷却した。
他の武装の確認をすると現段階ではレールガンと腕部の赤外線ミサイル、そして脚部に装備されたクリムゾンクラッシャーと呼ばれる兵器だ。
爆煙が薄くなりシステムチェックを作動させると同時に巨人が動いた。
どうやら肩に撃ち込んだミサイルは効いたらしく肩関節の装甲を破壊していた。
全砲門が開く。
【TITAN】のアーマーに装備された火器がリリスを睨み弾丸を吐き出す。


「バルカン砲が2―――対地ミサイルランチャ−が1―――」


敵の武装を確認。
ミサイル3機にバルカン秒間に約200発。
すぐにレールガンのトリガーを引き、向かってくるミサイルを撃墜、誘爆させる。
だが、バルカンの攻撃までは防げず高速の弾丸がリリスを襲う。
リリスは前方に地面を蹴り、最低限の弾丸だけを受けそれをやり過ごす。


「―――クリムゾンクラッシャー起動―――」


右足が激しい鼓動と共に唸りを上げる。
空気中のチリやホコリがバチバチと閃光を放ち始め、右足が閃光に包まれる。
閃光が全体を包むと空中で体勢を変え【TITAN】を狙う。

―――雷が鋼の巨人を貫いた。

【TITAN】の肩が地面に落ち低い金属音が響く。
破壊された駆動機器が漏電し爆発が起こる。
巨人は肩を中心に装甲が融け動かなくなっている。


「脚部冷却開始―――」


脚部から白い蒸気と共に熱が排出される。
クリムゾンクラッシャー―――電気を暴走させる事で鉄すらも蒸発させるエネルギーを発生させその力を脚部1点に集中させる兵器だ。
その威力は装甲が壊れていたとは言え【TITAN】の肩を破壊し、さらに半身を溶解させた事からも理解できる。
冷却を終えるとリリスはレールガンを手にしたまま半壊した巨人に接近する。
クリムゾンクラッシャーの威力は申し分無くあった。
だがその代わりに精密性に欠け、実際は胸部を狙ったはずの攻撃が大きく逸れ肩関節に当たってしまった。
その為に【TITAN】のエンジン等の急所にはダメージは無くまだ戦える状態にある。


「――――――」


声になっていない機械音が巨人から発せられる。
残っている左腕を動かそうとするが関節が溶解したために行動が鈍く、リリスが片手で受け止めるのは十分だった。
銃口を胸部に当てる。
他の場所より大きい稼動音が伝わってくる。

―――鼓動が止まった。

背部に空いた穴からオイルが流れ出し流血のように周囲を飾った。
巨人だった鉄の塊から降り、リリスは老人の下へ向かう。
その後ろでスプリンクラーが作動し消火材の雨が壊れた巨人を包んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

テストはまだまだ続いた。
【TITAN】に始まり次々に様々な機動兵器がリリスの前に立ち塞がり破壊された。


「――――――」


鋼の銀狼たちが吼え、リリスに牙を向ける。
リリスはすぐに手に取った戦槍トリニティーでそれを薙ぎ払う。
この槍は前の戦闘で戦った騎士型機動兵器から奪い取った物で遠中近攻撃に利用できる特殊槍だ。
敵は狼型が3機。
最初は12機の高速コンビネーションを見せていたがリリスの戦槍の餌食になった。
自分の倍の長さはある戦槍を振り回しリリスは攻撃を仕掛ける。
戦槍の刃の部分からさらに光の刃が伸び触れた者を一刀両断する。

―――2つの爆音が鳴る。

1機は頭部、1機は胴を切断させ鉄屑となり地面に平伏す。
同時に脚のホルスターからレールガンを引き抜き背後から遅い来る鋼狼を撃ち抜く。


「・・・・・・」


最後の爆音が響きリリスはレールガンをホルスターに直した。
戦槍から光の刃が消え、全身の熱を排出し冷却を始める。


「ご苦労じゃったの今日のテストはこれで終わりじゃ」


老人が現れリリスの肩を叩いた。
何か良い事でもあったのか老人は上機嫌だ。
リリスはどう反応していいのか分からずいつも通りのポーカーフェイスのままでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


激しい警戒音が鳴り響いた。
それを聞きリリスはベットから跳ね起きコードを引き千切る。
レッドランプが点灯し部屋を惨殺の後の様に赤く染めている。
すぐにベット脇に置いてあった服に袖を通しトリニティーとレールガンを掴み取った。
時間は先程のテストから数時間した経っておらず、全身のエネルギーはフルチャージされていた。


「・・・リリス・・・」


老人の声が聞こえた。
入り口の壁に凭れ掛かるように崩れ腹部を押さえている。
リリスはすぐに老人に近寄り状態を見る。
血が溢れ出していた。
傷口からしておそらく44口径の銃で撃たれたのだろう。
弾は老人の腹部を貫通し肝臓などの内臓を破壊して体内に残っている。
すぐに止血しようとするが老人がそれを静止した。


「・・・逃げろ・・・奴らの狙いはお前じゃからの・・・」


咳き込むと共に血を吐き出す老人をリリスは喋らないようにと止める。
だが老人は首を横に振り脆い灯火のような目でリリスを見た。


「ワシには孫が居ての・・・ちょっと大人しい女の子じゃったが6年前に亡くなったんじゃよ、交通事故じゃった・・・」


リリスは老人の手を握り話しをただ聞いているだけだった。
いや、それしか出来なかった。
老人の体力などの計算にいれても老人の傷は深く、手術を行なっても治る見込み10パーセントにも満たない。


「お前はな・・・その孫似せて作ったんじゃよ・・・」


扉の外から複数の足音が聞こえる。
リリスは老人の手を離しレールガンを握った。
すぐに部屋を飛び出し廊下にいた武装した兵士の1人に狙いを合わせる。
トリガーを引き乾いた発砲音は無く代わりに電気が走る音と共に弾丸を放つ。


「じゃからかの?・・・奴らがお前を引き渡せと言ってきて断ったのわ・・・」


残った兵士が持っていた突撃銃の銃口を向ける。
リリスは兵士の顎を蹴り上げ腹部にトリニティーを突き刺す。
そのまま戦槍を振り死体を他の兵士に投げつける。


「リリス・・・お前は逃げろ・・・」


老人の声が消えた。
隣の部屋で老人の体温がだんだん消えていくのが分かった。
戦槍を振り背後にいた兵士を切りつける。
鮮血が舞いレッドランプが照らす赤い廊下をさらに紅で染める。


「―――バスターモード―――」


戦槍が矛先から大きく2つに割れた。
中心からは砲口が見え閃光を発しエネルギーを充電していく。
兵士たちは突撃銃のトリガーを引くが人でないリリスに銃弾は意味が無かった。


「―――エリミネートシヴァ―――」


リリスがトリガーを引くと戦槍から巨大な光が放たれた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


研究所からは黒煙が上がり炎でガラスが弾け飛んだ。
その周りを複数の黒い車両が止まっており逃げ出してきた研究者たちを次々に捕まえていく。


「脱出成功、一時待機」


研究所から少し離れたビルの屋上でリリスは立ち止まった。
トリニティーをSCSでボックス化しポケットに入れており手にはレールガンだけを握っている。
空を見上げる。
黒と青が入り混じった真夜の空には星が昇り地上を淡い光で照らしている。
その光を見つめリリスは今後の事を考える。
「逃げるルート」「エネルギーや弾薬類の補給」「その後どうするか」を。


「・・・・・・」


老人は「逃げろ」と言った「狙いはお前だ」と。
狙われる理由は分からない。
だが考えても無駄だろう、それを知っても私に何の利益も無い。
少なくとも今は・・・


「さようなら・・・お爺様・・・」


一度だけ研究所を振り返り屋上のコンクリートを蹴る。
少女は綺麗な跳躍で闇夜を駆け夜の闇へと消えた・・・



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