CHRNO ETERNAL
クロノエターナル

番外編

「Grave of Weapons」

 

 

 

 

 


―――自機以外の機体の破壊、又は機能停止―――


それが己の記憶メモリーに有った唯一のデータだ。
それ以外には何も無いのだが特には気にしなかった。
他のメモリーのデータを見れば己の存在が何なのかは簡単に理解できた。


―――鋼のボディー

―――各部に装備された最新鋭の武器

―――戦闘用に設定されたプログラム


そう、自分は戦うだけのただの機械だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


後部バーニアーが火を吹いた。
自機のスピードが急激に加速しターゲットを楽に捕える。


『ロングレンジキャノンチャージ―――』


瞬時に側面にある2機の砲口が光り、エネルギーを放つ。
ターゲットは光に飲まれ爆発を起こす。
その爆光に漆黒のフォルムが照らされる。
【ERDA】それが自機のコードネームだ。
汎用性の高い機体で、外部オプションの装備により様々な状況において戦えるようになっている。
現在装備しているのは高機動特殊補助ユニット“バハムート”
攻撃力、防御力、機動力、運動性などが飛躍的に向上する大型オプションだ。


『2番から6番オープン、ミサイル発射』


周囲に数十は居る敵機に向けて業火を放つ。
発射された弾頭はターゲットを追撃し強力は火力で爆発する。
周囲が黒煙に包まれ、その残骸が雨のように降り落ちる。
その黒煙を突き抜け1機の敵が突撃してくる。
シルバーとブルーのカラーリングで人型にフライングユニットを付けた軽装の機体だ。
各部に多くのブースターを付けているようでアクロバティックな飛行でこちらに向かってくる。


『1番、2番オープン―――ファイヤ』


接近する敵に対し追尾ミサイルを放つ。
フルブーストで正面から向かってくる攻撃に対し敵はビームサーベル一振りで対処する。
【ERDA】はすぐにロンブレンジキャノンの側面に装備されたビームブレードを起動させ敵を迎え撃つ。
―――紅き閃光の火花が散る。
光子の剣同士がぶつかり合い雄叫びを上げ両機を揺らす。
機体のスケール差の為か大型の【ERDA】の方がやや強気だ。
それを理解したのか敵機は飛翔し力比べから逃げる。
「逃がすか」と【ERDA】は追撃ミサイルを放ったがライフルで破壊される。
自ら追撃を試みるがまだ残っていた他の敵機達に集中砲火を受ける。
さすがにあれだけの火力を見せつけた後なら狙われるのは当然だ。


『“アイオーンフィールド”起動、マルチトレースミサイル全弾発射、ポッドパージ』


機体の後部に設置されていた小型ミサイルが一斉に発射された。
熱源を感知するミサイルはすぐさま獲物を見つけ狼の如く飛び掛る。
それを運良く掻い潜り生き残った機体が【ERDA】目掛けマシンガンを撃つ。
―――空しい銃声だけが響く。
放たれた弾丸は【ERDA】目掛け突進するものの当たる寸前で何かに弾かれる。
彼に攻撃を放った全機が己の目を疑う。
自分が放った攻撃がまるで拒む様に漆黒機体に当たらないのだ。
“アイオーンフィールド”―――外部遮断空間と呼ばれるそれが攻撃を寄せ付けないものの正体だ。
極僅かだが自機の周囲に特殊な空間の壁を発生させ機体自身を外部と遮断させるシステムだ。
さらにこれを応用したシステムもありそれが―――


『“レイゲート”起動―――』


業火の注ぐ戦空の中一瞬にして漆黒の機体は消えた。
比喩でもなんでもない実際に消えたのだ。
同時に【ERDA】に向けて放たれた無数の攻撃は“アイオーンフィールド”に弾かれる事無く反対側に居た機体に命中する。
結果的に【ERDA】の敵は同士討ちに合い半数の機体が鉄屑に変わった。


『――――――』


深青の機体はレーダーを働かせていた。
瞬時に消えた漆黒の敵機、あれは間違い無く自分を狙ってくると感じていたからだ。
だが周囲に彼の熱反応は無い、あれだけ大型な機体だジャミングしても熱源を隠し切れないはずだ。
何故―――深青の機体は自機のAIをフルに稼動させ理由を探す。


『――――――!!!』


深青の機体のAIが理由を導き出すと同時に彼の体に亀裂が走った。
亀裂は大きな裂け目となり爆発の切っ掛けともなった。
その爆音と共に漆黒の機体―――【ERDA】は次のターゲットを視界に入れた。
―――“空間転移システム”
それが彼のAIが導き出した答えた。
ゲートと呼ばれる異空間への門を開き、その異空間から一瞬で別のゲートへと移動するワープシステム。
そんな技術はこの戦闘時代にある事は知っていたが実際に目の当りにするのは初めてだった。


『ロンレンジキャノン―――ファイヤ』


漆黒の機体から多数を薙ぎ払う閃光が放たれ爆音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


空は黒煙に満ちていた。
数分前まであれほど空を埋め尽くしていた機械達の姿は無くただ残骸だけが地上に積もっていた。
まさに機械の墓場とも言える光景だった。


『“バハムート”損傷率65%・・・エネルギー、残弾数共にレッドオーバー』


烈火の息を排気口から吐きながら【ERDA】は機体のチェックに入る。
漆黒の装甲は傷や煤が大量に付き限界に入っている。
左側のロングレンジキャノンは損傷し砲身の中央から煙を噴出している。
他にも損傷は酷くミサイルハッチは8割が焼け尽き、バーニアーの数機黒煙を上げている。
“アイオーンフィールド”と“レイゲート”も多用した為かガタが来ており後数回が限度だ。
半傷した漆黒の機体はレーダーを起動させ敵機を探す。


―――自機以外の機体の破壊、又は機能停止―――


それが命令だからだ。
機体が半傷してようと関係無い自分はその命に従うままただ敵を倒すのみ。
―――熱源反応があった。
こちらに向かって来ている、無駄なエネルギーを使わずに済んだ。
【ERDA】は機体を反転させ砲口を熱源に向ける。
黒い機体だった。
死神をモチーフにしたような機体でローブのようなものを纏っておりフォルムは見えない。
だが相手も自機と同じく激しい接戦を勝ち抜いてきた機体、装備にボロが目立ちローブも裾が焦げている。


『――――――』

『――――――』


ゴングは必然的に鳴った。
【ERDA】は“バハムート”に残されている全ての弾丸を放ち接近する。
それに対し死神型の機体はサポートメカであろう小型ポッドを数機放ち、主具の大鎌を構える。
―――壮大な爆音が響いた。
【ERDA】の周囲に居たミサイルは爆炎を上げ砕け散る。
それがあの敵機のサポートメカの為だという事を【ERDA】は理解していた。
無線式遠隔操作型射撃ユニットそれがそのメカの名称だ。
簡単に説明すると本人の意思で自由に飛び回り攻撃する賢い狂犬のようなものだ。
先程はあれから放たれたレーザーによりミサイルが撃ち落されたのだ。
だが、それに屈する事無く【ERDA】は突き進む。
いくら遠隔操作型の射撃ユニットと言ってもマザーである機体が軌道上に居れば撃つ事も出来ないはずだ。


『――――――!!!』


無駄なパーツを排除しながら死神に突撃する。
武器はロングレンジキャノン一門、その側面が光り光子の大剣となる。
光子の大剣は死神の大鎌と激突し今までに無い閃光を上げる。
死神は攻撃を受ける為に力比べに挑んだのだ。
だが、それはフェイク。
ビームブレードを展開したロングレンジキャノンの砲口が光り雄叫びを上げる。


『ロングレンジキャノン―――零距離射撃』


最後の砲門が黒煙を上げ爆発した。
零距離から放ったエネルギーは完全には当たらず残ったエネルギーが逃げ場を探し砲身を破裂させたのだ。
周囲は訪問から立ち込める黒煙で視界を無くしている。
機体に衝撃が走った。
数少ない生存していた後部バーニアーの1つに何かが突き刺さり機能を停止させた。
意外な事態に【ERDA】は機体を回転させソレを振り払い一定の距離を取る。
【ERDA】動いた為か黒煙はすぐに散り敵の存在を知らしめた。
目の前に居るのは紫色の機体、大鎌を持ち肩には数機のユニットを装備している。
そう、この機体は先程の死神だ。
先程の攻撃でローブは焼失したようだが本体にはあまりダメージは行かなかったようだ。


『敵―――【REAPER】を全力で撃沈する』


胸部のマスキングから敵の名称を読み取り、自らに命を出す。
【REAPER】の武器は大鎌と射撃ユニットが3機、かなり消耗している。
それに対し自機は“アイオーンフィールド”と“レイゲート”、エネルギーの残値を計算しても両方合せて1回しか使用できない。
他に手もあるが最終手段な為にそう安々と使えない。
爆炎などで痛んだ装甲が「ミシミシ」と限界音を上げる。
後部バーニアーも飛行しているのがやっとの状況、後何分飛んでいられるかだ。


『各部再チェック―――状態確認終了―――』


【ERDA】は最後のバーニアーを点火した。
火炎を吹く後部の勢いで【REAPER】に向けて突撃する。
狙いは1つ、機体による直接攻撃―――アタックだ。
それを理解したのか【REAPER】は射撃ユニットを放ち速攻で決めに掛かる。
3機のユニットは解散し正面三方から一斉に光線を放った。
しかし【ERDA】は最後の“アイオーンフィールド”を展開しそれを弾く。
破るのを不可と解っていても射撃ユニットは攻撃を続ける。


『ロンングレンジキャノン、外装ブースター排除』


排除したパーツがすれ違い様に射撃ユニットに激突―――破壊し地上へと落ちていく。
機体のエネルギーは限界でモニターには赤い点灯と警告音が鳴り響く。
だが【ERDA】は自機の勢いを止めず【REAPER】に向け突き進む。
それに対し【REAPER】は大鎌を構え最後の一撃に備える。


『“アイオーンフィールド”、全バーニアー出力全開―――』


エネルギーの壁と鋼の大鎌が衝撃を生み出した。
【ERDA】のエネルギータンクと【REAPER】の大鎌が悲鳴を上げる。
互いにバーニアーをフル稼働させ全力で敵を押し切る。
後部バーニアーが爆音を上げ焼失、それに続き“バハムート”の格機器が停止してゆく。
鳴り響くレッドランプの警告音。
しかし【ERDA】は空のエネルギーをさらに搾り出し敵機を押し返す。
―――鋼の大鎌に亀裂が走った。
あまりに強大な激突に耐えられず崩壊の前兆が始まる。
(これで最後だ)
トドメを挿す為にバーニアーを吹かす―――


―――爆炎が【ERDA】を包んだ。


漆黒のアーマーは爆発と共に四方に吹き飛ぶ。
【REAPER】は眼前で起こった事態を理解できず、一旦後退する。
おそらくただでさえ壊れかけだった機体で無理をした為に機体が耐えられず爆発したのだろう。
そう認識すると【REAPER】は自機の機体チェックを行なう。
爆破に巻き込まれたせいか各部の損傷は激しく左の肩から下は無くなっていた。


『【ERDA】撃沈・・・次の戦闘にうつ―――』


―――突然だった。
突然、黒煙内に熱反応が浮かび上がり自機に向かって来たのだ。
その機体はビームサーベルを手に【REAPER】のメインエンジンを貫いた。


『――――――』


二度目の爆音が空に響いた。
そこに残ったのは漆黒の機体、軽装なフォルムでその肩には【ERDA】のマスキングが施されていた。
【ERDA】は光子の剣を収納し各部の状態チェックに入る。


『【ERDA】、各部、重力反転装置共に異常無し』


【ERDA】―――それがこの機体の名前だ。
高機動特殊補助ユニット“バハムート”と言う名の繭を脱いだ機体で本当の【ERDA】の姿だ。
【ERDA】は腰にセットされたアサルトライフルを引き抜く。
そして―――


『敵機撃沈、任務続行』


そう言って【ERDA】は次の敵を求めその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


戦場は血のような夕日に照らされた。
そこでは最後のターゲットにアーマースライサーを突き立てる戦士の姿が有った。
漆黒の装甲版は擦切れ煤で汚れきっており、所々から火花が飛び散っている。
最後の敵は強敵だった。
白兵戦に特化された機体で連戦で武器を消耗した自機に勝算は薄かったが周囲に転がっていた廃機の武器を利用しなんとか勝利を収めた。
アーマースライサーを引き抜く、オイルが噴出しワイン色雨を降らせる。


―――乾いた風が吹いた。


戦闘中に飛び散った火薬やオイルの臭いを含んだ澱んだ風だ。
視界を上げる。
周囲には灰色の野が広がり所々で黒煙を上げている。
Grave of Weapons―――兵器の墓場と呼ぶに相応しい場所だ。
動くものは何一つ無い、死した者達の平原。
その鋼の丘の上に立つは漆黒の機体ただ1人。
喜びも悲しみも無くただ命の為に激戦を潜り抜いてきた狂戦士。
任務は終わった、後は基地に変えるのみ。


『任務完了―――これより帰還―――』


鋼の丘の上で彼は糸を切られた人形の様に崩れ落ちた。
その体は動く事無く周りの風景と同化している。
漆黒の機体はただ血の夕日に染められるだけの人形と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

壮大なジェット音が灰色の野に響いた。
空を覆う大型の輸送機は地上擦れ擦れで停止し船底からワイヤーを垂らす。
それにぶら下がり数人の軍服姿の男が降下する。


「こちら回収班、目標発見これより回収する」

『了解、慎重に回収しろよなんたって今後軍で量産する機体のオリジナルなんだから』

「アイよ、分かってるって」


男達は不安定な足場を登り手馴れた手付きで漆黒の機体にフックを掛け始める。


「しかしコイツも可哀想だな、これが本当の戦闘だって記録されてるんだろ?実際はただの量産機の選抜テストなのに」

「そうだな、実際はこんな殺し合いをしなくていいんだがな」

「別に気を使う必要は無いだろ?機械は人の道具、それ以上でもそれ以下でもない」

「そうそ、機械は人に使われてナンボなんだよ」

「これで強い機体だけを造れるからコストが削減されるんだろ?さらに軍も強力になる一石二鳥だな」

「そうなったならあの神モドキ達を楽に倒せるぜ」


そんな話をしながら男達は作業を終了し漆黒の機体は男達と共に輸送機に引き上げられた。
輸送機のジェット音が響き兵器の墓を後にする。


『――――――』


沈黙が灰色の野に舞い落ちる。
風は止み、完全に何も無くなった墓は異様な雰囲気を奏でている。
機体の亡骸は何も言わずただそこに落ち着いているだけだ。
ここは兵器の墓―――Grave of Weapons
勝者の無き空しい鋼の丘だ。

 

 

―――ここに勝者の末裔とその仲間がやって来るのはまだ数十世紀先の話―――


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