CHRNO ETERNAL
クロノエターナル

第4話

「覚醒のGODDESS」

 

 

 

 

目の前が真っ白になった。
遠方から小さな声が微々に聞こえるが、全身の痛みや感覚の麻痺で聞き取れない。


―――ドクン

―――ど、く、ん

―――ドックン

―――どっく、ん


胸に痛みが走った。
脈が速くなり全身が異常に熱くなっている。
頭が鈍器で殴られたような痛みを発する。


「―――!」


何かが動いた。
体の―――体内で―――何かが―――
吐き気がした。
何かが動く事で内蔵が締めつけられ胃の内容物が逆流する。
激痛が全身を襲う、意識が朦朧とする。


「やめろ!!!」


叫ぶ。
身体を締めつけるそれに対して叫ぶ。
だが、意識は朦朧としていき暗い闇に沈んでいく・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昴さん!」


たまが叫んだ。
気絶していた昴が何の前触れもなく目覚め、起き上がったからだ。
たまのが聞こえなかったのか昴はそのまま立ち上がり黙ったまま何かを見ていた。
その視線の先にエルダとガーディアン―――ギガメッシェルが戦闘を繰り広げていた。
―――笑った。
凄まじい戦闘を見て彼女は口で笑っていた。


「すばる・・・さん?」


今まで見たことが無かった先程までとは違う昴にたまは身を引いた。
冷気・・・嫌、殺気と呼ばれるものが彼女から発せられ彼女を包んでいる。
たまは再度昴を呼んでみるが全く反応は無い。


「・・・ぉ・・・」


一瞬何かを呟くと同時に昴は地面を蹴った。

 

 

 

 

 


『アームモーター、リミッター破損。左腕電力カット』


エルダの操るPSAの左腕がぐったりと垂れ下がった。
その瞬間、ギガメッシェルの鋼槍が襲い掛かる。
瞬時に残った右腕を動かし握っているアーマースライサーでそれを凌ぐ。


『右腕破損率45%。これ以上やると右腕が潰れる』


右腕に左腕を失った分の負荷が掛かったのか右腕が悲鳴を上げ発熱する。
すぐに右腕を引っ込め後方に跳躍するが、追い討ちに会い地面に叩きつけられる。
相手は高性能な古代超技術の機械、完全に解読されていない古代技術を手本に作られたPSAでは適うはずも無い。
無防備な自分を次に襲うのは正確な死―――嫌、崩壊と言うのが正しいのか。


『最後ダ、トド―――』


トドメ―――と最後までそのボイス音を聞くことは出来なかった。
違う、発せられる事が無かったのだ。
その変わりに金属が叩かれる音と地面に何かが倒れこむ音が聞こえた。


『・・・?』


PSAのアイカメラを動かし状況を確認した。
そこにはすぐに立ち上がり片膝をついているギガメッシェルとそれを見下している昴の姿が在った。


『昴!?』


気絶していたはずの彼女が自分を助けた事に一瞬驚き声を上げる。
が、そんな相棒の声に彼女は反応しなかった。
昴はこちらを睨んでいる自動防衛アンドロイド―――ギガメッシェルを見た。
エルダと戦闘を行っていたのに傷1つ無い。
さすがこのダンジョンの最後の守護者、並大抵の戦闘能力ではない。


「・・・・・・」


昴は顔色一つ変えない。
いつもの喜怒哀楽は一切無いポーカーフェイス。
そう―――生気の無い人形のような・・・
ギガメッシェルが体勢を変え地面を蹴った。
瞬間に鋼槍を構え昴目掛けて突き出す。


『―――!』


彼の狙いは正確なはずだった。
だが、彼の攻撃は昴には当たっていなかった。
数ミリという間隔を開けて昴から外れていた。


『標準システムニ異常。システムチェック始動』


当たらない理由。
それはシステムの異常以外考えられない。
人間には自分の攻撃を避けられるはずは無いのだから。
システムチェックを行いながら鋼槍を目にも留まらぬ速さで繰り出す。
が、その攻撃は再度外れ昴の真横を通る。
当たったら人と言う存在は肉塊に変わるだろう。


「・・・・・・」


昴は近づいた。
恐怖感などは無い。
あるのはただ1つ。考える事も1つ。やる事も1つ。


―――トクン


体内で何かが動いた。


―――ド、ク、ン


その事を考えると反応しそれが脈打つ。


―――ドックン


それが自分の意思と重なった。
何も考えられなくなった。
やる事は決まった。
後はヤルだけだ。


「・・・・・・」


鋼槍が向かってきた。
今度は確実に当たるだろう横一線んぼ攻撃。
跳躍しても脚を持っていかれ、伏せても第二打を放たれる。
諦めたのか昴は動かなかった。
防ぐでもなく、避けるでもなく、ただ呆然と立ち尽くしていた。
―――硬いもの同士がぶつかり合う高い音がなった。
ギガメッシェルは唖然としていた。
この状況はデータには無く、予想外の出来事だった。
―――鋼槍が昴に当たる前に止まったのだ。


『!!?』


瞬時に身を引き状況確認。
だが、ターゲットの周囲には何も無く自分の鋼槍を防ぐものはない。


「・・・・・な・・・」


微かな声をボイスセンサーが拾い上げた。
人間の声だったが気にせずにギガメッシェルは鋼槍を振り回した。


『トドメダ』


最後まで言い切った。
奇怪なことは起こったがさほど問題ではない。
ようは倒してしまえばいいのだ。
自分に余計な事を考える機能は搭載されていない。
鋼槍の矛先が完全に昴を捕らえる。


『―――!!!』


閃光が走った。
ギガメッシェルの身が宙に浮き、地面に叩きつけられる。
遠くでで戦闘を見ていたたまはあまりの眩しさに腕目を隠している。


「―――羽?」


たまの頬を柔らかい羽が撫でた。
ふいに開いている手を反す。
羽は元からそこを目指していたかのように手の平に身を置いた。
純白とやさしさと白銀の強さを持つ羽が―――
ふと、顔を羽が飛んできた方に顔を向けた。
理由は分からないだが、向かなければならないような予感がした。


「あ・・・」


言葉が止まった。
そこには大量の羽が渦巻いている。
その聖翼の舞の中央に彼女がいた。
白い大きな翼を生やした女神のような姿をした女性―――昴が―――

 

 

 

 

 


―――ドックン


敵を睨めつけた。
敵は古代の化石機械、ここのラストガーディアン。


―――ドックン


彼は自分を襲い仲間を襲った。


―――ドックン


大きな翼を羽ばたかせ周囲の羽を舞い上げる。


『グギ・・・ギァギガ』


さっきの衝撃でボイス機能がやられたのか奇怪な機械音を上げギガメッシェルが立ち上がった。
勝てないと判ったのか行動に妙な違和感がある。
自分はここの守護者、引くわけには行かない。
行動からはそう読み取れた。


『―――!』


ギガメッシェルが動いた。
両腕で鋼槍を掴み昴の中心を狙って突き出す。
その攻撃を避けれないのか昴は全く動かない。
そんな昴にトドメとばかりに鋼槍が接近する。


『!!!』

「ふぅ・・・」


沈黙がその場を包んだ。
無数の銀片が2人の間に舞い、崩れ落ちていく。
綺麗な星の川が一瞬だけ誕生した。
ギガメッシェルは鋼槍を突き出したままの体勢で止まっている。


「さすがに1000年以上も経てば当時の最新機械も化石と変わらないな」


笑って昴が言った。
手は前に突き出されておりその位置には鋼槍の刃があったはずだ。
が、その位置には鋼槍の刃は無く、地面には無数の銀片が散らばっていた。
鋼槍が砕けたのである。
ギガメッシェルの放った一撃は昴に触れることなく彼女の手前で粉砕した。
ギガメッシェルはその理由などが一切理解できず電子脳がオーバーヒートしている。
そんな機械に昴はコツコツと近づいていく。


「お前の足掻きは終わりだ。ここからは俺の時間だ」

『!!!』


衝撃がギガメッシェルを襲った。
下から発生した衝撃が彼を突き上げ後方に横転させる。
間を空けず、すぐに後方から衝撃が襲う。
打。打。打。打。打。打。打。打。打!打!打!打!
数えられない程の衝撃が彼の鋼のボディーを連打する。


『―――ギィ!』


腕が垂れた。
連続で放たれる打撃の衝撃で関節モータが耐え切れなくなったようだ。
腕は肩と数本のケーブルだけで繋がっている。
それだけでなく他の腕や脚も外れてはいないがガタがきている。


「・・・エンド・・・」


喉元を掴み、急速に熱エネルギーを集め連続して爆発を起こす。
最後の爆発と同時に相手を投げ地面に叩きつける。
ギガメッシェルはなすすべなく地面にひれ伏し擬製音を漏らす。


「これで終わりだな」


昴はギガメッシェルの頭部を左腕で持ち上げ、口元で笑う。
光が集まってきた。
昴の右腕に光が集中し眩い光球を作り出す。
かなりの熱量があるのかまだ触れていないのにギガメッシェルの装甲が溶け始めている。


『ギギガァギィ・・・』


この先の運命が分かるのか動かない体を必死で動かすギガメッシェル。
だが無情にも昴はゆっくりと光球を彼の胸部に押し当てていく。
―――爆発が起こった。
巨大な爆音と共にその場だけが灰色の爆煙に包まれる。
両者とも姿は見えない。
その様子を見ていたたまはすぐに駆けた。
昴のことだけを思い。
昴のことだけを―――
だが、それを途中に倒れていたエルダが止める。


「エルダさん!なん―――」

『大丈夫だ、熱源反応は消えたが生体反応は残っている』

「え!」


大きなものが風を起こす音がした。
同時に爆煙が散り四方へ伸び濃度が薄まる。
羽が飛び散った。
白き翼を広げた女神がその中心に立っていた。
その側には先程までギガメッシェルだった残骸が散らばっている。


「雑魚がまだ居たか」

「え!?」

『避けろ!!!』


閃光が放たれた。
飛ばされた光球はたまの前に出されたエルダの腕を瞬時に溶かし消滅した。
たまは状況を理解できず目をぱちくりさせている。


「っち、邪魔を」

「・・・昴さん・・・」


動けなかった。
先程とは違う感じが昴から放たれいる。
―――違う。
たまの心の何がそう直感した。
昴では無い。
これは―――これは昴の形をした別の―――


『テメェ、さっき突き飛ばされて頭がどうかしたんじゃないか』

「黙れクズが・・・」


エルダの言葉にこれといった反応を見せず女神は光球を作り出す。
デカイ。
先程たまを狙った光球よりも格段に大きい。
エルダは瞬時に対応策を計算する。
だが、その結果はすぐに出て計算を止めた。
直径1m以上もの光球をガタが来ている自分の身体で避けられるはずが無い。
たまだけでもと考えたが足が竦んでいる為、希望は薄い。
絶体絶命とはまさにこういう状況を言うのだろう。


「消えろ」


標的は2体。
しかも間近だと言うならこのぐらいの力で十分だ。
標的は人型機械が1機と人間の少女が1体。
機械は半壊で少女はまともに動く事は出来ない、外しはしない一発で十分だ。


―――やめろ―――


―――誰だ!


―――エルダとたま―――手を出すな―――


―――エルダ?たま?敵を殺すのは当然の行為だ。


―――止めろ―――たま―――エルダ―――仲間―――相棒―――


―――仲間?相棒?私にはそんなものいない、いるのは敵だけだ。敵は消滅させなくてはならない。


―――止めろ―――攻撃―――するな―――


―――黙れ!勝手に私の心に入ってくるな!


―――2人に―――手を出すな―――


―――黙れ!


頭が締めつけられる。
脳が破壊されそうな痛みだ。
女神―――昴は片手で頭を押さえ呻きにも似た声を上げる。


「昴さん!」

『昴!』


敵が叫んぶ。
心に入ってくる奴の名前を―――自分の名前を―――
光球の制御が鈍る。
光球?
そうだ―――この光球さえ放ってしまえば―――
周囲のことなど関係無い、完全に奴らを消去しなければ。
瞬時に光球の大きさが倍増し人間の倍のサイズに発展する。


「くっ・・・邪魔だ!!!消えろ!!!」

「!」

『!』


光球は地獄の声を上げ2人を捉えた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 
 


――――――――――――――――――――――――――――

 

 

登場人物

 

 

名前:昴
性別:女

大陸に生きる少女。
本当は男だったのだがある事件で負傷後、起きたら女になっていたと言う謎の過去を持つ。
大雑把で気分屋だが、やる時は別人のような性格になる。
様々な兵器を扱い、能力を極限まで引き出すことができる
 

名前:たま
性別:女

女になった昴が起きたときに一緒に倒れていた少女。
名前以外は全く覚えていないのだがそんな事を忘れさせるほど明るく優しい振る舞いを見せる。
世話をしている立場の昴をお世話しているしっかり者でもある。
人見知りが激しいのがたまに傷。

 

名前:エルダ
性別:男

昴の相棒でツッコミ担当。
サンド・アーマード(砂上強化戦車)のメインコンピューターである機械知性体ユニット。
黒いPSAなど機械武装の核としても使用可能である。
昴を生活・武力・経済などあらゆる面でサポートする。



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