CHRNO ETERNAL
クロノエターナル

第3話

「ロストリサーチ」

 

 

 

 


銃声がそこに響いた。
通路の壁からは無数の機械の触手が生えておりその先にはレーザーガンが装備されている。
昴達は通路の曲がり角で銃器に弾丸を補充している。


「大丈夫?たまちゃん」

「はい、昴さんがいますから」

『どうでもいいが、とっとと蹴散らせ』


たまからマガジンを受け取り再度防衛システムに向かって弾丸を放つ。
それと同時にT字の反対側から黒いPSA―――エルダが短身機関銃で同じ行動を取る。
2人が放った弾丸が数機のレーザーガンを撃ち抜き小規模な爆発が起きる。
昴は開いている左腕を腰に滑らしグレネードを引き抜き、触手のざわめく通路に投げる。
爆発が起きた。
グレネード内に入っていた金属板が拡散し通路をうごめくレーザーガンに突き刺さり誘爆する。


「行くよ、みんな!」

「はい!」

『了解』


昴の声と同時に彼女らは地面を蹴った。
ここは数千年前の大戦によって埋没した古代技術が眠っている“遺跡”と呼ばれる地下迷宮。
格遺跡にそれぞれ特有の自己防衛システムがあり、数千年後の今でもその能力は衰えていない。
大陸には他にもここのような遺跡があり、さまざまな古代技術が眠っている。
昴の本来の仕事は“ロストリサーチャー”と呼ばれるもので、遺跡に蓄積されているデータを回収しそれを売りさばくというものだ。
今回、昴1人で仕事をするつもりだったのだがたまに泣きつかれ連れてくるはめになった。
エルダは人格プログラムがあるコアをPSAに移植し遺跡内に入れるようにした。
さすがにサンド・アーマードの姿で遺跡には入れず、たまの護衛役も自分1人では心許ないからだ。


「ふ〜気温は快適なんだけど空気が痛いよ」


昴は軽く息を吹き余分な力を抜いた。
遺跡に入ってからだいたい1時間は経っており道もそれなりに進んでいる。
赤外線装置などの侵入者防衛トラップの大半は解除しているため怪我などはあまりない。
だが、自分が見落としたトラップを遺跡には素人のたまが誤って触れてしまい厄介を被ったことも事実だ。
注意に注意を払いトラップを探知しながらゆっくりと遺跡の奥へと向かう。


『次の角、右側から熱源反応―――ガーディアンだ』


相変わらずの人声と機械音が雑じったような声でエルダが報告に昴は顔を歪める。
ガーディアン―――遺跡の守護者は格遺跡に数体から数十体存在し、形もさまざまだ。
強いか弱いかと聞かれると強い、過去の経験でも倒すのにかなりの時間が掛かる。
さらに今回はたまもいるのだ、できるだけ交戦は避けたい。


「頼むから効いてくれよ」


鞄から箱状の装置を取り出しスイッチを入れる。
装置のランプが点灯し耳に引っかかる妙な音が放出された。
これは特定の電波を発生させる装置である種のガーディアンには決定的な効果を見せる。
ただしこれは自分達の機械にも影響を与えることもあるのだがエルダには電波を防ぐ装置を装備さしている。


『ガーディアン停止・・・成功だな』

「すごいですね」


たまの歓声とは裏腹に昴は安堵する。
通路を曲がると電波により停止している騎士型の機械があった。
昴は念の為にそれの腕と脚を解体しダルマ状態にして放置した。


「たまちゃんに質問」

「え!?あ、はい」

「数少ないガーディアンを設置にはどこに設置する?@入口。Aトラップをクリアした後に通る次の角。B最深部前のゲート。」

「ん〜・・・・・・Bですか?」

「正解、最深部なら相手の体力も落ちてるし武装も疲弊してるからね。それに大抵の人が最後の最後で気を抜くから」


昴とたまが話していると目の前に大きなゲートが現れた。
昴の勘も当たりゲート前にはガーディアンが数機配備されている。
すぐに装置を起動させるがガーディアンが停止する様子は無く肩を落とす。
どうやらあまり御気に召してくれなかったようだ。


『世の中そう甘くは無い』


状況を読み取ったエルダが短身機関銃を構える。
ため息をつきながら昴もホルスターの銃に手を掛ける。
たまは昴達の後ろに周り、少々怯え気味である。
こちらの存在に気づいた騎士型のガーディアンがゆっくりと進んでくる。


「―――!」


昴とエルダは同時に地面を蹴った。
ガーディアンの数は4機、2人で十分の数だ。


『ターゲットロック』


短身機関銃から一斉に弾丸が発射される。
貫通こそしないものの銃弾は鎧の表面を歪める。
銃はあまり効果は無いとふんだエルダは跳躍し一気に接近する。
それに反応しガーディアンは武装していたランスを振り上げる。


『アーマースライサー』


銃を背部に収納し、両腰に収納されていた鋼金属分断ナイフを取り出す。
ガーディアンのランスを地面に叩きつけ肩関節にアーマースライサーを突き刺す。
突き刺した肩関節を蹴り上げ、腕を破壊する。
だが、もう1機のガーディアンがエルダを背後から狙う。


『予想範囲内』


先程叩き落したランスを蹴り上げ振り向きながらキャッチ、勢いを利用してガーディアンの胸部を貫く。
瞬時の行動に理解できないままガーディアンの機能は停止する。
エルダは機体の腕力を使い回転し、腕を破壊したガーディアンと激突させスクラップにする。

 

 

 

「えい!」


エルダがガーディアンの相手をしていると同時に昴も攻めかかった。
最初に放った弾丸で分かったが銃はあまり効果は無い。
エルダと同じようにナイフで関節を狙ったが素材の違いと腕力の差があったため突き刺せなかった。


「一瞬で決めるか・・・」


銃をホルスターにしまいその反対側に装着しているホルスターに手を伸ばした。
そこから数本入っていた18cmほどの筒の1本を取り出し右手で遊んでみせる。
それを気にしてかガーディアンの行動が一瞬止まり冷たい気が積もる。
場所は正面に2機、同時に襲ってこられたら防ぐ手はないだろう。
筒を握りなおし脚に力を入れる。


「―――っ!!!」


地面を蹴った。
筒のスイッチを入れ、小さな機械が動くのを微々に感じる。
ガーディアンは向かってきた無装甲な人型生物にランスを向ける。
―――敵武器ト思ワレル筒ヲ構エ自分達ニ接近、触レル前ニ心臓ヲ貫ク。
それがガーディアンに搭載されたAIの出した計算だった。
自分達は勝つと・・・
閃光が眼前を通り、妙な線を残し過ぎ去った。
それはもう一方の味方機も同じでさらにもう一度その閃光が彼らの前を通り過ぎた。
ガーディアンは腰の捻りランスに力を入れる。
目標を捕らえそれを突き出す―――だが。


「・・・ッガ」


目線が落ちた。
腕のランスが地面に落ち、内部の機械が飛び散る。
2機のガーディアンがスクラップになり地面に崩れ落ちる。


「ふ〜・・・」


昴は軽く息を吹いた。
手には青白く光る刃を放つ筒が握られている。
レーザーブレードと呼ばれるその筒は古代技術を応用した武器で、筒内で発生させた光を刃と化し万物を斬裂く剣となる。
だが、エネルギーの問題で1回の充電で使えるのは2〜3分だけだ。
ガーディアンの完全破壊を確認すると昴はレーザーブレードの刃を直し、たまを呼んだ。


『熱源反応無し、周囲50m内にはガーディアンは確認されない』

「残るはお宝だけですね」


仲間の2人が順に言った。
門番役のガーディアンを倒したので、この先に敵は居ないだろう。
今までの経験からするとたまの言った通り残るは最深部の遺跡の核だけだ。
今度は鞄から小型電子機器を取り出しそのコネクターをガーディアンが守っていた扉のロックパネルにセットする。
数秒すると「ガッチャ」という音と共に扉のロックが解除され自動的に扉が開いた。
部屋との気温差があるのか扉が開くと同時に冷気が流れ出してきた。


「最後まで気は抜くな・・・か・・・」


そう呟くと昴は冷気が流れ出す扉の奥に進んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

精密機械がそこに山を築いていた。
50m四方の部屋の約3分の1を機械に占領されており、この遺跡を管理している。
その中央には大型モニターがあり部分部分に様々な場所を映している。
他にも何に使うか分からない大型カプセルや電子機器が設置されており部屋の冷たい感じを出している。


「相変わらず、最深部は謎の部屋だね」


感心かあきれか昴はため息をついた。
ま、謎な分だけ金になるのだが。
昴は2人を入口の近くで待たせ中央の大型モニターへ向う。
するとそれを待っていたかのようにモニターの前に置いてあったコントロールシステムらしいイスが動く、昴は躊躇無く腰掛けた。
鞄の中からデータディスクを取り出しイスに設置されていたディスクトレイに預ける。


「コンピューター、機械類や技術類をデイスクに。余るようだったらここの主要データを―――」

『未登録のディスクがセットされました、直ちに認識番号とパスワードを入録してください。行われなかった場合はギガメッシェルによる排除を行います』

「え!?おいおい!」


予想外の展開に昴は驚き表情が一転する。
すぐに相棒に案を聞いてみるが両手を上げている。
警告音が響く。
逃げる事も考えたがロックが掛かったらしく扉が開かない。
そんな間にもコンピューターのカウントと共に天井がスライドし重低音が響く。


「エルダ、たまちゃんを頼んだよ」

『了解、お前も無茶はするな』


それだけを言うとエルダはたまを部屋の端に寄せその前に自分が立った。
それを確認すると昴はイスから下り、天井を見上げる。
地震並の振動が部屋を襲った。
スライドし開かれた天井から現れたのは槍と斧を合わせたような武器を持つ騎士型兵器。
先程のガーディアンと違い、昴の1,5倍ぐらいの身長で異様な気を放っている。
昴はすぐにポケットからレーザーブレードを抜き、光の刃を出さずに構える。


『ターゲット確認。敵、人型生物。アビリティー&ディフェンスパラメータ確認』


騎士型兵器―――ギガメッシェルは鋼槍を振った。
昴目掛けて一直線に鋼槍の刃が振り下ろされ鋼鉄の床を叩く。
昴は後方に跳躍しそれを回避し反撃体勢に入ろうとする。
だが、その体勢に入る前に第二打を放たれ床を転がる。
再度体勢を立て直しレーザーブレードのスイッチを入れる。
巨体が振り回す鋼槍を光の刃でなんとか防ぐ。


「くそっ!」


昴が舌打ちした。
通常の槍ならレーザーブレードに触れただけで溶解、分断されるのだがギガメッシェルの鋼槍は何も起こらなかった。
―――対光学兵器コーティング。
昴の頭に騎士の装甲に施されているシステムの名前が浮かんだ。
構造などはよく解らないが昴の武器が効かない事は確かだ。
すぐに地面を蹴り騎士の攻撃範囲から逃げる。


『サポートシューティング・・・シュート』


昴の状況を判断したエルダが援護射撃を放った。
だが、鋼の装甲に銃弾は通用せず兆弾し周りの電子機器に当たった。
ギガメッシェルはそれを全く無視し昴をターゲットに再登録する。
人間とは比較にならない速さで地面を蹴り接近する。
昴はそれを避けようとしたが対応しきれず首を掴まれ壁に激突する。


「ぐはっ!」


体内の内容物が器官を逆流する。
激痛が全身を走るがそれが脳に伝わる前に投げられ第二の衝撃が伝わる。
部屋にあった大型カプセルに激突し外部ガラスを破壊しぐったりと横たわる。


「昴さん!」


エルダの後ろに隠れているたまが叫んだ。
その叫びにも応じず昴はカプセルの上でぐったりとしている。
今にも飛び出しそうなたまをエルダの腕が押さえる。


『やめろ、今行けば―――!』


黒いPSAが腰からアーマースライサーを抜いた。
アイカメラの眼前には大型の鋼槍がありアーマースライサーはそれを押さえている。
どうやら敵はすぐに自分をターゲットにしたらしい。
背後のたまのことを考え機体のパワーをフルに使い相手を押し返す。


『っち!まさか同類と殺る事になるとはな』

『未登録機体・・・直チニ排除スル』

『仕事熱心なことで!』


エルダはPSAの動力をフル可動させた。

 

 

 

 

 


「昴さん!」


たまが叫んだ。
エルダがギガメッシェルと戦闘に入った時に抜け出してきたのだ。
必死で昴の揺するが何の反応も無い。
悪寒が走る。
大事な、大切な人が今目の前で消えようとしている。
涙が溢れる、声が震える。


「昴・・・さん」


生気が引いていく昴に対し、たまはただ名前を呼ぶしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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登場人物&機体

 

 

名前:昴
性別:女
歳 :17歳

大陸に生きる少女。
本当は男だったのだがある事件で負傷後、起きたら女になっていたと言う謎の過去を持つ。
大雑把で気分屋だが、やる時は別人のような性格になる。
様々な兵器を扱い、能力を極限まで引き出すことができる。

 

名前:たま
性別:女
歳 :15歳

女になった昴が起きたときに一緒に倒れていた少女。
名前と歳以外は全く覚えていないらしいがそんな事を忘れさせるほど明るく優しい振る舞いを見せる。
世話をしている立場の昴をお世話しているしっかり者でもある。

 

名前:エルダ
性別:男(性格データ)
歳 :約30歳(初起動日から)

昴の相棒でツッコミ担当。
サンド・アーマード(砂上強化戦車)のメインコンピューターである機械知性体ユニット。
黒いPSAなど機械武装の核としても使用可能である。
昴を生活・武力・経済などあらゆる面でサポートする。



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