CHRNO ETERNAL
クロノエターナル
第2話
「暴れるは砂蛇、治めるは鬼女」
PUSYUUUU!
砂漠に沈んだ町で高可動したPSAから熱気が放出された。
昴は今まで、PSAの起動チェックを行っていた。
近くの家の廃墟の影ではクレノアがそれを一部始終チェックしている。
「は〜、やっぱ外の空気はいいや」
一式のチェックが終わりPSAの冷却が始ると装甲の前面部が開き昴が飛び降りた。
額の汗を拭い手を団扇代わりにする。
「おつかれ」
クレノアがタオルとドリンクを投げた。
昴はそれをキャッチし汗を拭き喉を潤す。
クレノアはPSAに持っていたノートパソコンを繋げ可動データを収集する。
「どう?PSAは」
「上々、申分ないね」
愛機の青き装甲板を軽く叩いた。
データの収集を終えるとクレノアは熱がひいた機体の装甲体の側面にある小さなハッチを開きスイッチを押した。
するとPSAの周りを半透明な黒い幕が覆い手の平台の小さなブロッ状のボックスに変わった。
これはSCS(形状収縮システム)と呼ばれ大型の機械などを携帯できる小型ボックスに変える機能だ。昴達のサンド・アーマードもこの機能は付いている。
昴はそのボックスを掴み他にも同じボックスが入っている腰のポーチにそれを入れた。
「さすがに連続で2機も動かすとシンドイよ」
廃墟の影に昴が仰向けになる。
視界に入った空は快晴で雲は全く無い。
(綺麗だな・・・)
昴の頭にそんな感想が浮かび上がった。
「フフフッ・・・」
「何だよ、俺見てそんなに面白いか?」
「いや、昴が本当の女の子みたいに見えたから」
クレノアがクスクスと笑う。
昴は恥ずかしく少々顔を赤める。
自分だって好きでこんな身体になったのではない。だが、この身体になってから考え方や行動が少し変わったのは確かである。
「ところで―――」
『昴、聞いてるか』
突然、相棒の声が割って入ってきた。
昴はすぐにインカムのマイクを引張り出し応答する。
「聞いてるよ、何かあったの?」
『5時の方向から熱反応が3と高熱反応が1向かってきている。3は機甲アリ、1は・・・』
「サンドバイパーか・・・」
昴の言葉を聞いたクレノアが「ッハ」っと起き上がった。
サンドバイパーとはこの地域に住む巨大蛇のことで全長は60m前後、長いもので100mはある。
おもな食べ物は機甲アリでサンドバイパーの狩りはこの地域ではよく見られる光景なのだ。
だが、その度に周囲の町などを破壊しているのが事実である。この廃墟もそういう過程で砂に埋もれたのであろう。
『今から移動すれば回避はできるが・・・』
「ああ、すぐにエンジンを起動させて。たまちゃんもすぐにそっちに向かわせるから」
『了解、高速巡航モードの準備をしておく』
通信を終えるとマイクを元の位置に戻しクレノアの方を見た。
すると、彼も通信機を使用しネーラに連絡を取っていた。
「・・・たまちゃんをエルダの方にやってくれ・・・ああ、APDの準備を頼む・・・」
通信が終わり彼もこちらを向いた。
どうやら考えていることは同じなようだ。
「こちらはAPDは6機、武器は対地アンダーランチャー・・・」
「こっちはさっき貰ったPSAが2・・・使えるのは俺だけだから1と同じか・・・」
お互い確認を取ると自分のサンド・アーマードとデューン・クロウラに向かった。
昴はPSAをサンド・アーマードの上部に立たせ5時の方角を見ていた。
遠方には舞上がる砂、どんどんこちらに近づいている。
「たまちゃん、ちゃんとベルト締めた?」
『はい、ガスもちゃんと止めてます』
モニターに映るたまが応答した。
それを確認すると昴はPSAを操りバックパックに内部装備していた大型自動拳銃を取り出した。
そしてPSAのカメラで遠方の砂煙の発信源を拡大した。
「機甲アリが2、サンドバイパーが1・・・機甲アリが1匹飲まれたみたい。サンドバイパーは相変わらずこちらに進行中」
確認した移動物のデータを隣で走行しているデューン・クロウラに送る。
すると、デューン・クロウラに連結されているコンテナの天井が開き合計6機のAPDが立ち上がった。
APDは肩に大型のミサイルランチャー「対地アンダーランチャー」を装備しており、すぐに砂が舞上がる方向に向けた。
『こちらクレノア、APDは全機好調。装備にも異常無し』
「追いつかれる時間分かる?」
『約5分後、それまで全機待機、無駄弾は意味が無い』
「了解」
昴のPSAが再び遠方を見た。
2匹の蟻を追い求め爆走する砂蛇、また食われまいと必死に逃げる蟻。その振動で舞上がる砂。
走行するサンド・アーマードの振動の他に砂漠自身の振動が伝わってくる。
「弾丸、劣化ウラン弾にチェンジ。ロッキング、オート」
自動拳銃から「ガシャ」っと高い音が鳴った。
ほぼそれと同時にサンドバイパーが肉眼で確認できるようになった。
全長は最大の100m強、昴もここまでの大物は見るのは初めてだ。
クロウラのAPD達が一斉に対地アンダーランチャーを全身するサンドバイパーに向ける。
「こっちは、まずエサから・・・」
PSAの銃口が手前を走る機甲アリに向けられた。
オートロックが働き正確に機甲アリの頭部を狙う。
『全機、攻撃開始!』
通信機からクレノアの声が響いた。
その瞬間、PSAの銃口とAPDのランチャーから一斉の閃光が放たれた。
昴のPSAの放った銃弾は正確に機甲アリの頭部を粉砕した。
そしてすぐにもう1匹の機甲アリに銃口が向けられる。
その間にクロウラのAPD達は一斉に対地アンダーランチャーでサンドバイパーを攻撃する。
「ファイヤ!」
2匹目の蟻の頭部をPSAが粉砕した。
(これでエサは仕留めた!)
だが、サンドバイパーの速度は落ちない。
どうやらこちらをエサと認識したらしくトパーズ色の目がこちらを睨む。
巻き上げる砂が覆う硬質な鱗がAPD達からの砲撃でやや血がにじんでいる。
「相手さん、エサを変えたみたいだよ」
『どうする?こっちの装備じゃ傷わ負わせられても致命傷は・・・』
「あ、それはまかせて。ところでクレノア、PSAって酸系の液体にも耐えられたよね」
『ん?ああ、一定の時間なら酸系の液体中は大丈夫だよ』
それを聞くと昴は軽く微笑んだ。
そしてすぐにPSAをサンド・アーマードの最後尾まで移動させる。
正面を向くと数メートル先に獲物を見据える大蛇の姿が確認できる。
『バカな事はするなよ』
「うん、死なない程度にやってくるよ」
『昴・・・もしかして・・・』
「じゃ、行って来るよ♪」
『昴!!!』
クレノアが叫んだ時にはもうPSAはサンド・アーマードから跳躍した後だった。
(進入成功♪)
光の入らない暗闇の中、昴はPSAのアイライトを光らせた。
すると、あまり見ても喜ばれないような脈打つ薄紅の壁が出現した。
少し横にカメラをずらすと下の尖った白い柱のようなものが見えた。
ここは先ほどまで昴達を追っていたサンドバイパーの口の中である。
状況はこうだ、サンド・アーマードから跳躍した昴のPSAはサンドバイパーの前に着地したのだ。
そして、それをエサだと思ったサンドバイパーは本能的にPSAを飲み込んだのだ。
「やっぱり、巨大な怪獣を倒すなら内部からでしょ」
PSAが大型自動拳銃を頭上に向けた。
そしてフル・オートで約200発は入っている自動拳銃が連続で閃光を放つ。
轟音なため、コックピットに入っている昴にもその音は聞こえた。
ねじ込むように弾丸がサンドバイパーの頭部に進入し血が噴出する。その血がPSAのアイカメラを薄く染める。
それと同時にサンドバイパーの叫びか口が大きく開閉しPSAの足場が大きく揺れる。
「きゃあ!」
PSAの内部のコックピットが天地が変わったように大きくこける。
昴がPSAを立ち上がらせると周りの揺れは治まり、出口となる口は開いたままになっていた。
PSAの自動拳銃はトリガーを引いたままにしていたせいか「カシャカシャ」と空回りと続けていた。
『―――大丈夫か―――?』
『―――昴、無事―――?』
同時にエルダとクレノアから通信が入った。
昴はサンドバイパーの口に向かいながら返信する。
「うん、PSAは血まみれになったけどね」
強い光が昴を襲った。
つい数分前まで青かったPSAは鮮血で鮮やかな真紅に染まっている。
同じく先ほどまで暴れていたサンドバイパーは頭部から血と脳が流れ出し、完全に沈黙していた。
(ま、弱肉強食は自然の摂理か・・・)
何か寂しそうな目でサンドバイパーを見た後、昴はたま達のいるサンド・アーマードに跳躍した。
その跡地には巨大な肉塊となった砂蛇が表情無き地面に飲まれていった・・・
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登場人物&機体
名前:昴
性別:女
歳 :17歳
大陸に生きるナイスバディの少女。
本当は男だったのだがある事件で負傷後、起きたら女になっていたと言う謎の過去を持つ。
特技は射撃と武器いじりで彼女の作ったカスタムガンはの大抵の物を貫通、破壊する。
名前:たま
性別:女
歳 :15歳
女になった昴が起きたときに一緒に倒れていた少女。
名前と歳以外は全く覚えていないらしいがそんな事を忘れさせるほど明るく優しい振る舞いを見せる。
世話をしている立場の昴をお世話しているしっかり者でもある。
名前:エルダ
性別:男(性格データ)
歳 :約30歳(初起動日から)
昴の相棒でツッコミ担当。
サンド・アーマード(砂上強化戦車)のメインコンピューターである機械知性体ユニット。
昴を生活・武力・経済などあらゆる面でサポートする。
名前:クレノア
性別:男
歳 :23歳
昴のなじみのメカニック。
天然&温厚な性格で真面目には全く見えないのだが機械に関する仕事をすると別人のようになる。
昴たちの装備・武器・車両などをメンテナース・修理・改造などでサポートする。
名前:ネーラ
性別:女
歳 :24歳
クレノアの相棒。
しっかり者でたまに恐ろしいものを作り出す凄腕のメカニック。
世話焼きで天然のクレノアしっかりサポートしている。