CHRNO ETERNAL
クロノエターナル

第1話

「砂漠のイレギュラーガール」

 

 

 

 

 


「―――生きたい?」


月が昇った夜の砂漠。そんなところに少女は居た。
彼女の足元には17歳ぐらいの男性が倒れていた。黒い服は赤く染まり下の砂も赤く染まっていた。


「―――生きたい?」


確認をとるかのように少女が聞く。
綺麗な声で引っかかる事無く声が消える。


「ああ、できたらな......」


男が力ない声で答えた。だがそれは無理だと言うのは状況を見ただけで分かる。


「―――どんな事になっても?」

「ああ......生きているなら...なんだろうとね......」


傷がうずく、血が止まらない。彼はもう死ぬ一歩手前のような状態だ。
すると、少女はそっと彼の手を握り「ニッコリ」と笑った。


「分かりました、頑張ってみますね」


すると彼女の手が突然光りだした。
そしてその光は辺り一帯を包み込む大きな光のドームにまで発展していった......
その光はとても温かく優しいものだった......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「―――さん、―ばるさん」


闇の中で、優しく幼い声がした。


「起きて下さい、『昴さん』!」


先ほどより大きめの声、それに応じ『昴』は目を開いた。
すると、目の前に頭に大きなリボンを付けた少女がいた。
髪は栗毛の丸ボブ。大きな瞳したあどけない顔つき。歳は昴より2、3下で身長も150前後。服はブカブカで両手がシャツの袖口に完全に隠れている。


「おはよう、『たまちゃん』」


昴が上半身を起こした、彼女の肩下まで長い髪がさらさらとゆれる。
大きく背伸びをすると寝ていたベットから降りた、そして前にある鏡をみながら髪を三つ編みにし始めた。
まだ若い容姿、多く見積もっても20歳には2、3届かない。三つ編みの青ッポイ髪。クッキリと段差があるナイスバディ。それを包むのはつや無しの黒いTシャツに便利ポケットがあるアーミーパンツ。少し底の高いコンバット・ブーツ。
どちらかと言うとモデルのような女性だ。


「ご飯、できてますよ」


たまが持っていたトレーを昴に渡した、トレーにはスパゲティが置いてあった。
昴はプラスチックフォークを取り出しスパゲティを口に運ぶ。
それを確認するとたまも自分のトレーをキッチンから引っ張り出す。
狭い空間―――簡単なキッチンと小さいロッカーと棚、それに折畳み式のハンモックベット。どうやらタンクか何かのコンテナのようだ。


『よ、起きかた「バカヤロウ」』


部屋のスピーカーから声が発せられた。その声は人のような声だったがどこか機械音が雑じっていた。


「ああ、またたまちゃんに起こされたよ。『エルダ』」

『さっそくだが、悪い知らせだ。周囲に機甲アリの成体が3、こちらに向かって来ている』

「了解、すぐに出る。たまちゃん、後片付け頼むね」

「はい、分かりました」


トレーをたまに返すと壁際の固定フックからマガジンポーチの付いたベルトと大型のオートマティック(自動拳銃)を取り装着する。
そしてオートマティックに弾丸が入っている事を確認し小型のインカムを右耳に取り付ける。
その他、いくつかの装備を確認すると昴は完全気密構造のエア・ロックを潜り抜けた。

 

 

 

 


外には何も無い砂漠が広がっていた。
その中を砂に溶け込みながら何かが進んでいた。3つに区切れている鋼の身体、この環境の為に変化した結果だ。
昴はエア・ロックを閉じ跳躍した砂地に降りた。昴の着地と同時に彼らの赤い目が彼女を捕らえる。


「エルダ、援護はいい...「俺」だけで十分だ」

『分かった、ノーマルモードのままで待機する。だが、危険と判断すれば...』

「ああ、その時は頼んだよ」


インカムでエルダと連絡を取る。
相方のサンド・アーマード(砂上強化戦車)を背に昴は目の前の赤い甲殻類の目に意識を集中させる。
鋭い強靭な顎は大抵の鉱物を砕く事ができ、機甲アリ1体のパワーは軽く砂地の岩を粉砕するぐらいだ。


「ま、食後の運動には持ってこいか...」


昴が腰のオートマティックに手をかけた。この鋼のアリには銃弾など効くはずも無いのにだ。
そんな事を知ってか知らずか機甲アリは昴に強力は顎を振った。


「っち!」


昴は中に強化合金プレートを入れてあるグローブでそれを防ぐ。
そしてすぐに、相手の下に入り込み銃を突きつける。

DON!!!DON!!!DON!!!

銃声が響いた...そしてそれと同時に機甲アリの腹部が破裂する。
ありえない芸当だ。普通、機甲アリの鋼の装甲に銃弾を打ち込んだなら弾丸が撥ね返り砂に落ちる。
だが、昴の銃はそれを超え機甲アリの装甲を貫通したのだ。
見た目は大型オートマティックのカスタムガン。全長250mm。重量1800g。口径44口径Mag。総段数6発。さらにレーザーサイトらしきものを装備している。
昴は倒した機甲アリを蹴り飛ばしすぐに立ち上がる。
(残り2匹!)
機甲アリが突然、口から異臭を放つ唾液を吐き出した。昴は後方に跳びそれを回避する。すると唾液は倒した機甲アリに掛かり鋼の装甲を溶かし始めた。蟻酸と呼ばれる液体は強力な酸性で、さらに神経マヒを起こさせる。人が触ったらただでは済まない。


「殺虫剤でも持ってくるんだった...」


昴の銃がアリの触角を捕らえる。さすがに機甲アリと言えど感覚器を奪えばただの動く硬質昆虫でしかなくなる。

DON!DON!DON!!!

4本の触角のうちの3本を撃ち抜く。
だが、触角を撃ち抜かれた機甲アリはそのまま昴に襲い掛かる。
昴はすぐにマガジンポーチからマガジンを引き抜き、銃に装填してすぐに攻撃を避ける。
視覚などもそれなりに発達しているようだが触角を撃ち抜いたため目標が確りしていない。


「っ破!!!」


アリの赤く硬い目に垂直に銃を突き付ける。そして容赦無くトリガーを前後に動かす。

DON!!!

頭部を破壊され機甲アリは沈黙した。
(ラスト!)
そう思い振り向いた昴の背後には機甲アリの姿は無かった。
昴はさらに意識を集中させる。砂漠に吹く風、舞い上がる砂、自然の動きを身体で感じ取る。
そんな中、自然の動きとは違う大型の物が砂中を進んでいるのがなんとなく分かった。


「真下!!!」


そう叫び砂を蹴り跳びあがると、それとほぼ同時にアリの鋼の顎が砂地から飛び出て砂を飲み込む。
昴は後方に着地するとすぐに銃を機甲アリに向ける。だがアリはすぐに砂に潜り身を隠す。
さすがわこの地の虫、この砂漠の環境を利用した戦法だ。
そして再び機甲アリは昴の真下に向かって砂中を進む。


「...なら」


昴は腰のベルトから円筒状の物を手に取りそれのピンを抜く。
グレネードだ。昴は2つ数えてそれを自分の真下に置く。
そしてすぐにその場を離れると先ほどと同じく機甲アリが地面か飛び出し昴の居た場所の砂を飲み込む。
すると...

DOOOOOON!!!!!!

閃光が走り機甲アリが爆発した。
さすがの機甲アリも内部からの爆発にはお手上げだ。
エルダの感知した機甲アリを3匹倒すと昴はインカムの通信機に話しかける。


「駆除...完了したよ」

『了解。速く戻ってきな、他のヤツに気づかれる』

「分かったよ、すぐに帰る」

『あ、後、エア.ロック内で砂を払え。キャビンで払うと―――』

「はいはい、作動不良になるんだろ」

『その通りだ』


昴は笑った。そして、相方たちの待つサンド・アーマードに向かった。

 

 

 

 


エルダの指示通り、エア・ロックのエア・シャワーで服などに付着した砂を落とし昴はキャビンに帰ってきた。


「お帰りなさい、昴さん」

「ああ、ただいま」


すぐにたまが出迎えるどうやら戦闘中に片付けを終えていたらしく食器は乾燥機に掛けられ、ハンモックベットは畳まれていた。
昴はキッチンの収納スペースから折畳み式のイスを取り出し軽く腰を掛ける。


「お疲れ様です」


たまが笑顔で昴に言った。手には水の入ったコップが握られてる。
昴はそれを受け取り喉を潤した。砂漠の中、さらに運動後となれば水は最高級の飲み物になる。


「エルダ、ごたごたがあったけど予定通り―――」

『ああ、標準巡航モードでイーヴォルに向かう』

「さすがわ相棒。わかってんじゃん」


すると、エンジンが音を立てサンド・アーマードが動き出した。
昴はインカムとベルト、銃を元の場所に戻しロッカーからヘッドホンを取り出し音楽を聴き始め、たまは棚から料理本を取り出し読み始めた。
静かで穏やかな気が流れキャビンの中は完全にリラックスモードに入った。


「......そう言えばたまちゃん」


数分後、何かを思い出したかのように昴が言った。


「はい」

「イーヴォルに寄った後、久々に街に着くから足らない物とかエルダに言っといてね。アイツ、リストに記入したもの以外買わしてくれないから」

「はい、分かりました。ちょっと調べてみますね」


ふと昴の思い出した事に従い、たまはキッチンへと足を向かわせた。
すると、それと入れ違いにエルダからの突っ込みが入る。


『リストに記入でもしておかないとお前が余計な物を買うからだろうが』


スピーカーの声がヘッドホンの音楽の掻き消す。昴は音楽を切り、話しを返す。


「ま、そんな事よりトップレーダーじゃイーヴォルは確認できるんでしょ?クレノアたち着いてる?」

『ああ、トップレーダーの索敵範囲にイーヴォルが入った時から反応はある』

「そうなんだ...って、ことは向こうは30分前から居るわけ!?」


昴が声を上げる。
スピーカーからは『ああ』と言う解答が帰って来た。
昴は速すぎとは言いがたいがそれなりに早めにイーヴォルに向かっているつもだった。だがそれを相方のレーダーが目的地を捉える頃にはすでに向こうは到着しているのだ。当然の反応と言えば当然だ。


『ま、私たちは私たちの速度で行けばいいだろう』


スピーカーから慰めを受けながら昴の頬は「プゥ」っと膨れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


数分後、昴たちはイーヴォルに到着した。
そこは破棄された街のようで街の半分は砂で沈んでいた。
そんな所にデューン・クロウラ(砂上軌道車)が止まっていた。昴たちのサンド・アーマードの方が一回り大きい。
エルダに動力を停止させ待機アンカーを地面に打ちつけると昴は機甲アリ戦と同じ装備をして砂地に飛び降りた。
すると、向こうのクロウラのハッチが開き同じように人影が現れた。
2人は互いの相方の中央まで足を運んだ。


「久しぶり、昴」

「そっちもね、『ネーラ』」


肩で整えた茶髪にサンドカラーのメカニックスーツ。どちらかと言うと活発な感じを漂わせる女性だ。
昴はネーラとの間に一定の距離をとる。


「大丈夫、この前みたいにAPDで襲ったりしないから」


ネーラが笑いながら言った。
APDとはオート・プロテクト・ドールの略で民間の企業が使用する戦闘型自動装甲兵器のことだ。専用のAIを搭載しており命令を正確にこなす万能兵器と知られている。
強さは桁違いだが似たようなものでAIではなく培養脳を搭載している戦闘アンドロイド、自動歩兵と呼ばれるものもある。
昴は以前、ネーラの思い付きによりAPDと戦うはめになった事があるのだ。


「それにしても驚きね、本当に「女」になってるなんて......」

「ああ、なんたって本人も驚いてるんだから」


ネーラの反応に昴は頭をかく。
微妙な雰囲気、それをたまがそっと押しのけた。


「昴さん...その人は?...」


いつの間にかたまがサンド・アーマードから降りてきていた。
人見知りなためかネーラの雰囲気が強いせいか昴の後ろからヒョコっと顔をだしネーラを見るたま。昴は少し笑う。


「ああ、こいつはネーラ。ま〜友達の分類に入るやつだよ」


昴から名前を聞くとたまはさらにネーラを見た。
だが、ネーラが見返すとすぐに視線を逸らす。
挨拶がしたいんだろう。何となくそう理解したネーラは先に自分から挨拶をする。


「ネーラよ、よろしくね」

「た、たまです...よろしくお願いします...ネーラさん...」


微妙な挨拶が終わった。
落ち着いたのかたまは昴の後ろから横に移動する。


「ところでお宅の『クレノア』は?」

「多分、注文のメンテナース。こっちよ」


ネーラは手を振ってデューン・クロウラのコンテナに向かう。
昴とたまはそれに続いた。

 

 

 

 


コンテナ内には2体の人型の物体が専用ベットに固定され座っていた。
艶消しの鎧で全身を覆ったようなシルエット。大柄の人より1、5倍ぐらい大きい。
そんな人型の物体に1人の人影が上半身を突っ込んでいた。


「クレノア、昴が来たよ」


ネーラが声をかけると呼ばれた人影が上半身を上げこちらに向かってきた。
肩で揃えた茶髪。作業用のアイ・スキャナ。ネーラと同じサンドカラーのメカニックスーツ。
かなり作業をしていたのか全身に可動オイルなどの臭いが染み付いている。


「ああ、昴か注文の品はバッチリだよ」


クレノアはいじっていた機体を撫でた。


「ロボットですか?」


たまのほのぼのとした問いにクレノアは軽く首を横に振る。
そして、装甲体の側面にある小さなハッチを開いた。中のスイッチを押すと、かすかな作動音とともに装甲の前面部がぱっくりと割れた。内側には人間1人ぶんのスペースがあった。


「PSA―――パワード・シンクロ・アーマーと言います。ん〜君に分かり易く説明すると...鉄板付きの危ないジャケットってところです。」

「ふ〜ん、そうなんですか」

「クレノア...たまちゃんに余計な事教えるな!!!」


昴の拳がクレノアの顔面を叩く。
これ以上余計な事を吹き込まれては不味いと思いネーラはたまをデューン・クロウラのキャビンに連れて行った。
コンテナには不思議な空気を纏った2人だけが残された。


「久しぶりかな?それとも初めましてと言うべきか...」

「久しぶりだよ。ま、始めましてもあながちはずれじゃないね」


昴は苦笑する。そしてPSAのベットに腰掛ける。


「それにしても本当に...女に...」

「ネーラにも同じ事言われたよ。たく、驚いてるのはこっちだって」


昴が頬を膨らます。それを見たクレノアは少し吹きだした。


「何笑ってんだよ、気色悪い」

「いや、なんでもない。ところでさっき連れてた女の子は?」

「ああ、たまちゃんの事ね。俺がこうなって起きた時に居たんだ、今は俺たちと一緒に居るんだよ」


昴が答えた。
実際、昴はたまの事をあまりよく知らない。
あの日、自分が倒れたところまでは覚えているのだがその間の事は覚えていない。
起きたら男の自分が女になっていて、その横にはたまが倒れていたのだ。
たまが目を覚ましても何も覚えておらず、エルダとの相談の結果、親が見つかるまで世話をする事になったのだ。
だが実際はこちらがお世話されている......


「ま、生きてるんだし気楽にやるさ。生きてればその内、男に戻る方法があるかも知れないしね」

「君らしいね」

「ああ、俺は俺、昴だ」


昴の白く美しい顔が、白い歯を光らせた。
その顔はどこか微笑ましく、どこか悲しかった。

 

 

 

 


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登場人物

 

 

名前:昴
性別:女
歳 :17歳

大陸に生きるナイスバディの少女。
本当は男だったのだがある事件で負傷後、起きたら女になっていたと言う謎の過去を持つ。
特技は射撃と武器いじりで彼女の作ったカスタムガンはの大抵の物を貫通、破壊する。

 

名前:たま
性別:女
歳 :15歳

女になった昴が起きたときに一緒に倒れていた少女。
名前と歳以外は全く覚えていないらしいがそんな事を忘れさせるほど明るく優しい振る舞いを見せる。
世話をしている立場の昴をお世話しているしっかり者でもある。

 

名前:エルダ
性別:男(性格データ)
歳 :約30歳(初起動日から)

昴の相棒でツッコミ担当。
サンド・アーマード(砂上強化戦車)のメインコンピューターである機械知性体ユニット。
昴を生活・武力・経済などあらゆる面でサポートする。

 

名前:クレノア
性別:男
歳 :23歳

昴のなじみのメカニック。
天然&温厚な性格で真面目には全く見えないのだが機械に関する仕事をすると別人のようになる。
昴たちの装備・武器・車両などをメンテナース・修理・改造などでサポートする。

 

名前:ネーラ
性別:女
歳 :24歳

クレノアの相棒。
しっかり者でたまに恐ろしいものを作り出す凄腕のメカニック。
世話焼きで天然のクレノアしっかりサポートしている。


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