題名無し


第3話


「タナトス 嘆きの魔帝」

 

 

 

 

 

少女が居た。
意識が朦朧とする中で彼女だけがハッキリと見えていた。
繊細な紅の髪が印象的なそんな少女だった。


「――――――」


少女が喋った。
自分に対し必死に訴えかけている。
こちらも必死で聞き取ろうとするが声が小さいのか全く聞き取れない。


「――――――」


再度彼女は訴えかける。
真剣な様子で綺麗な赤髪が乱れに乱れている。
だが、こちらには彼女が何を言っているのかは全く解らない。
ただ少しずつ意識が闇の中に消えていくだけだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


目が覚めた。
瞬時に体を起こし周囲を確認する。


「うあ!?わぁぁぁ!!!」


誰かが扱けた。
どうやら自分が起きたためにバランスを崩してしまったようだ。
自分―――ガルフは地面に足をつけ、倒れた誰かに手を差し伸べる。


「あ、どうも、すいません」


ガルフの出した手お掴み、彼はそっと身を立たせた。
彼の名前はサクラバ=アキ、組織の医療班に勤める少年だ。
顔が童顔で女ッポイためか組織の隊員からやたらと人気がある。
アキは立ち上がると軽く服を叩きガルフに礼をする。


「ありがとうございます」

「いや、驚かしたのは俺だからな。礼を言われるほどじゃない」


と、左腕で頭を掻く。
「そう言えば、腕の検診で医療室に居たんだな」と、ここに居た理由を思い出す。
数週間前の任務で出会った紅の悪魔―――レブラントによって分断された左腕。
後に処理班のおかげで分断された腕が見つかり、体内のナノマシンで接合した。
が、本当に接合したか問題はないかなどの理由で医療班が五月蝿かった為仕方なく検査を受けたのだ。
別に長い検査ではなかったのだが徹夜で始末書を書いていた為か睡魔がどっと押し寄せたようだ。
始末書を書くのは何時もの事なのだが、バイオブーストの自分が眠気に襲われる事は珍しい。
ま、これもまだ自分に人間の身体が残っているという事だ。


「で、腕はどうだった?異常はないだろ」

「はい、ネルさんの話では腕に異常は無く動かすのにも問題は無いみたいです」


手に持っていたカルテを見ながらアキがたんたんと内容を読み上げていく。
そんなアキを半ば無視し寝ていた体を起こすため軽く体を動かす。
ついでにネルとは治療班のトップクラスの実力者でアキの上司に当たる女性だ。
が、妙な事に重火器の製作にも長けており、彼女の製作した武器は異常なほど強力である。
しかしその武器は常人には使える物ではなくガルフぐらいにしか扱えないのが難点だ。
ガルフはネルに医療と武器、2つの関係で世話になっている。


「じゃ、俺は行くぜ。散歩の時間だしな」

「あ、はい、何か変なところが見つかったときは連絡入れますんで」

「あいよ」


妙な気合の入った声を出し、ガルフは医療室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


散歩と言えば聞こえは良いがガルフの場合、散歩は散歩ではない。
自分の本能で気の向くままに歩き、強者を探す。
そういった目的だ。
が、ガルフがバイオブーストだと言うことも含めガルフ自身がかなり凄腕な為、その目的が達成された事は無い。
目的はあるのだが目的を達成できていない為、無駄な行動=散歩になっている。
ガルフはいつも通りに自分の気分しだいで道を選び気ままな散歩を楽しんでいる。

「今日も収穫はなさそうだな」


と、短くなった煙草を指で弾き設置されている灰皿に飛ばす。
道にはかなりの人数がおり街を活気づけている。
そのお陰で店側も熱を上げいつも通りの祭り騒ぎになっている。
周る所も周り終え、ここを抜けれて組織までゆらりと帰るのが散歩ルートである。


「――――――ん?」


視界を横切った。
赤髪のまだ10代後半と言った少女が路地裏へ消えるのが。
普通の人ならどうとも思わないだろう。
高校生ぐらいの歳の女が何処へ行こうと気にはならない。
だが、ガルフは彼女が自分を見つけてから路地裏に消えたように見えた。
まるで自分を誘い出すかのように・・・


「もう予備の煙草もないんだけどな」


空になった煙草袋を投げ捨て、少女が消えたわき道へと足を進める。
疑問を抱かなかった訳ではない。
だが、それより先に自分を誘おうとしていた少女が頭に浮かんだ。
どこかで見た事のある少女だった、どこで見たかは覚えていない。
ただ彼女を見た事は記憶に残っていた。
人の流れに逆らい、道を横切り少女の消えた横道に入る。
―――妙な空間だった。
先ほど居た大通りとは違い、活気のある賑わいは無くただの沈黙が住み着いている。
人一人通れるぐらいの細道をガルフはたんたんと進んでいく。

 

「―――ぎゃぁぁぁぁぁあ―――!!!」

 

悲鳴が狭い裏路地に反響した。
幸い表通りには悲鳴は聞こえておらず、誰も反応を見せ裏路地に入ってくる者はいなかった。
ガルフはすぐに地面を蹴り狭い狭い道を疾走する。
自分が首を突っ込まなくていい事件にも首を突っ込んでしまうのは難だが、さっきの赤髪の少女も巻き込まれているかもしれない。
曲がれる角を曲がり先ほどの悲鳴の元へと向かう。


「―――!!!」


広い場所に出た。
都心のビルとビルの間に出来た場所で表通りからは一切に見えない。
さらにビル側にも窓は無く完璧な死角と言えよう。
そんな場所で悲劇は起こっていた。


―――真冬のような冷たさを持つ空気

―――周囲の壁にへばり付く赤

―――赤の中央で朱色の肉塊

―――そして、その肉塊にゆっくりと近づく紅の獣のような少女


瞬時に脚が動いた。
5メートルはあった距離を一瞬で詰め紅の少女に奇襲を掛ける。
一瞬で間合いを詰めた脚を使い、人の亡骸に視点が言っている少女に蹴りを入れる。
決まった。
腹部に蹴りが決まった少女はそのまま気絶する―――筈だった。


「なっ!」


予想外だった。
蹴りを受けた少女が自分の脚を掴み攻撃を避け、側面に回り弾丸のようなパンチを放つ。
身を抉るような痛みが走った。
本当に体の細い少女が放ったかどうかを疑う攻撃に一瞬現実を疑う。
が、このまま殺られる訳にも行かず態勢を崩しそのまま脚払いに発展さ相手のバランスを崩させる。
そしてすぐに立ち上がりバイオブーストの能力をフルに詰め込んだ拳を相手に決める。
それが効いたのか紅の少女は宙に浮き地面に叩きつけられた。


「っく!」


少女はすぐに態勢を立て直しガルフに襲い掛かる。
その姿からは予想も出来ない猛攻がガルフに当たる。
―――無駄が無い。
隙を突き、一撃を加えるつもりだったガルフはすぐに思った。
少女の攻撃はその後相手に攻撃されてもすぐにカウンターをできる攻め方だった。
両者の無駄の無い動きで戦闘は一種の舞のように見えた。


「―――!」


舞のバランスを切ったのは少女だった。
長引く事を理解したのか彼女はすぐに後退し両腕を強く地面に叩きつけた。
―――地面が揺れた。
地面に触れた少女の腕が何かを掴みそれを出現させた。
剣だ、何も無いコンクリートの地面から少女は金属製の剣を取り出したのだ。
ありえない芸当だ。


「この女もバイオブーストか!?」


ガルフは驚いた。
バイオブーストは自己の身体能力を上げる他にも能力がある。
それが今さっき少女が使った能力だ。
体内のナノマシンを体外に出し、他の物質に作用させ変化させ武器に変える能力。
鍛えれば何も無い荒野でも瞬時に重火器を造れる驚異的能力だ。
少女は土から造り上げた鋼の剣を振り上げた。
―――速い。
人間なら見切れずに分断されるはずだ。
ガルフはそれを見切り地面を蹴る。
それに続いて放たれた斬撃も紙一重で回避する。
速さは一級品だ、しかし剣の大きさが彼女の身長に合っておらず振りかぶる時に少しだけ隙ができている。
相手の弱点を見つけたガルフはその隙を突き攻撃を放とうとする。


「何!?!」


少女の剣の形が変形し小型のレイピアに変化した。
どうやら剣の隙はわざとつくったものでガルフは誘われたのだ。
変化したレイピアがガルフの首を狙う。
絶体絶命。
今の状態では回避も攻撃を弾くことも出来ない。
皮膚の硬質化と言う手もあるがこの精神不安定な状況ではまともにナノマシンを操れない。
―――レイピアが崩れた。
ガルフは皮膚の硬質化も何もしていないだが、レイピアは崩れ去った。
一先ず地面を蹴り後退、状況を確認をする。
目を疑った。
腕が暴れていた、比喩などではなくそのままの意味だ。
腕の中で何かが暴れ狂うかのように腕の皮膚が奇妙に伸びたり縮んだりしていた。


「くぅ―――っ!―――う!」


声にならない声を上げる少女。
その顔はとても今にも泣き出しそうな顔だ。
―――顔?
ガルフはその時妙なことに気付いた。
路地裏に入っていった少女とこの少女が似ている―――いや、同じことに。
すぐにさまざまなことが頭を過ぎったがすぐにそれを停止させた。
少女がばったりと目の前で倒れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


少女に取った行動は実に自分らしくない行動だった。
敵である少女を担ぎ、そのまま安全な場所まで運んだのだ。
その後、彼女の殺した亡骸の後始末など本来自分は絶対やらないような仕事をしてしまった。
実に不可解だ。
相手が少女だったからか同種のバイオブーストだったからかは分からないがそうやってしまったのは確かだ。
そんなことを考えている傍らで問題の少女は寝ている。
腕が痛むのかたまに苦痛の声を上げる以外は問題は無い。
このまま殺す手もあるのだが止めた、それをするなら一々助けたりはしないはずだからだ。
それよりも問題なのは彼女の事だ。
突然奇妙な動きをした腕、自分も同種なのだがあんなことこの体になって一度も起こった無い。
あれがナノマシンの問題なのか、個々の特性の問題なのかは自分には分からない。
新種のバイオブーストのウィルスなのだろうか?
考えれば考えるほど深まる謎がどこぞかのビルの屋上に居るガルフの頭に山積みになる。


「―――う―――うっ―――」


少女が目を覚ました。
ナノマシンのおかげで全身を染めていた血は綺麗に取れ、美しい赤髪が光る。
先ほどまでとは違う場所に驚いているのかキョロキョロとしている。
そんな彼女の視界に自分が入り、少女はなんとなく状況を理解したようだ。


「大丈夫、最低でも今は敵じゃない。俺の名前はガルフ、バイオブーストだ」


取りあえず軽い自己紹介をする。
先ほどまで闘っていた相手に言うのは難だが「昨日の敵は明日の友」とも言うし・・・


「あたしの名前は瑠璃、あなたと同じバイオブースト。こう見えても元気に高校に通う女の子だよ」


っと、こちらまで笑いたくなるような笑みで彼女は返事をした。
瑠璃は確かにスラッとした高校生だった。
白い半袖にジーンズという楽な格好で、かわいいと言えばかわいい。
つでに高校の生徒手帳まで見せてくれたので高校生なのは確かだ。


「で、その高校生がなんで人殺しなんかを?別に殺したいほど相手を憎んでたはずじゃないだろう?」

「うん、憎んでなかったよ。あの人はたまたまあの場に居ただけだから」

「じゃ、なんでだ?」


ポッケトに腕を突っ込む。
煙草を探したのだが、先ほど空になったのをゴミ箱に捨てたのを思い出し諦めた。


「あのね、あたしたまに意識を失うんだ」


そんな妙な言葉から瑠璃の話は始まった。
彼女は普通に高校に通う女の子だった。
自分がバイオブーストであることも知っていたし、別に苦にも思っていなかった。
それが普通で無くなったのは最近の事だ。
妙な夢を見た、暗い真夜中の街を意味もなく歩き周る夢。
最初は悪い夢だと思った、起きると自分の家出寝ているし部屋を出た後も無かった。
が、その夢が激しくなるに連れ徐々に現実味を増して来た。
ある日、人を殺す夢を見た。
同じ街の路地裏で寝ていた酔っ払いを切り刻む夢を。
気持ち悪かったが特に気にすることも無くそのまま学校へ向かう。
学校へ行く為には夢に出てくる道を通らなければならずテクテクと脚を早める。
―――ん?
いつもとは違うものが目に入った。
そこは夢で見たのお同じ場所。
そこには「KEEP OUT」の文字がある黄色いテープが巻きつけてあった。


「自分が寝ているときに勝手に体が動いてさらにその体が殺人までしていたって事か・・・」

「うん。で、最近は起きてるときにも意識を失っちゃって・・・さっきも意識を失っててガルフさんに殴られた時からだんだん意識が戻っ

てきて最後に自分で無理やり止めさせたの」


なんだか怖い事をあっさりと言い切る瑠璃。
この子には自分が殺人鬼になることを恐れていないのだろうか?


「あたしね、大人になったら医療関係の仕事につこうと思ってるんだ」


話が「コロッ」と変わった。
ガルフは別に気にするでもなく無邪気な高校生の話に耳を傾ける。
それを理解したのか瑠璃は笑顔で話を続ける。


「ほらっ、バイオブーストって戦う為に造られたでしょ。けどそれはあたしを造った人達の言分であたしの意思じゃない、ようするに元か

ら造られたレールの上を何も考えずに歩いてるわけなんだ。それはとっても楽な生き方で安全なんだ、レールの敷いてある道は電車は普通

に通れるから」


瑠璃が上を見上げる。
それにつられ自分も首を伸ばし顔を立てる。
時間は5時。
青と茜の空が交じり合い、美しい色合いを出している。


「だからあたしはあたしを造った人達が言った事とは全く逆の事をしたくなったんだ」

「だから医療か?」

「そ、だから今まで頑張って勉強してきたんだよ」


風が吹いた。
空と同じ黄昏色の風が。
それをどう感じるかは個々の自由だが少なくともガルフは切なく感じた。
らしくない感情だが瑠璃の事を知ってしまったなら当然と言えるかもしれない。


「―――深夜に港のD−4番倉庫まで来い」

「え!?」

「深夜にD−4番倉庫だ、来なければそのままだし来れば俺が知っている唯一の解決法を教えてやる・・・」


ガルフは立ち上がり瑠璃を見た。
そこには先程から一度も変わらない笑顔があった。
黄昏の陽と空をバックに彼女の紅い髪が綺麗に舞っている。


「じゃあな」


ガルフは屋上を蹴り姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


磯の香りと潮風が夜の港に流れていた。
目に見える海は黒く、何かを呼ぶ捕食者のようにうねりを上げている。
ガルフはジッポで火を付けた煙草を口に咥える。
D−4と書かれた倉庫に凭れ掛かり静かに人を待っている。
その横には阿吽のように黒いドラムバックが置かれ使われぬことを祈っている。


「来たか・・・」


夜の港に紅い火が燈った。
ガルフが凭れている倉庫から少し離れたところに瑠璃が現れた。
それを確認するとガルフはドラムバックに手を掛け肩で担ぐ。


「ごめん、待った」

「いや、さっき来たところだ」


笑顔で手を振る瑠璃に無表情のガルフ。
奇妙なな組み合わせが再び顔を合わせた。
が、数時間前にあった時より空気が張り詰め重くなっているのは誰が見ても明らかである。
ドラムバックを置いた。
「ドン」と言う重音を鳴らした後、ガルフが中身を引き抜く。
重厚な重さが腕に伝わる。
それが何か分かっていないのか瑠璃の笑顔のままこちらを向いている。


「道がそれしかないのなら・・・」


悲しい声が聞こえた。
瑠璃は目を閉じ手を胸に当てた。
そんな彼女にガルフは漆黒の物体―――巨銃を向ける。
これはネル特性の銃で弾丸に劣化ウラン弾を使っている恐ろしい兵器だ。
瑠璃は解っていたようだ、ガルフの言う唯一の解決法と言うものを。
それは紛れも無い自身の死。
脳または体内のナノポッドを破壊されればバイオブーストは死ぬ。
そうすればナノマシンも機能を停止し体が暴走することも無い。
トリガーに指を掛ける。
巨銃の銃口を瑠璃の腹部中央に向ける。
―――せめて綺麗なままで・・・
銃声が響いた。
巨銃のハンマーが銃弾を弾き、バレルを通り抜ける。


「・・・・・・」


紅と赤が散った。
美しい紅い髪と赤黒い鮮血。
二種の赤が黒き港にそっと崩れ落ちる。
―――非戦闘によるナノマシンのストレス暴走。
それが彼女が意識を失い殺人鬼となっていた原因だ。
戦闘兵器として造り出されたバイオブーストは本人の意思に関係無く戦闘に出なければならない。
だが、それを拒否し彼女のように他の道に進もうとする者もいる。
その為に作られた一種のプログラムだ。
一定期間、ナノマシンを不使用だとナノマシン自身が消滅するようにする。
すると未使用のナノマシンは死を避けるために宿主の意思に関係無く自らを多用する行為―――戦闘を行なわさせるのだ。
その結果自己の消滅は避けられる。
が、その行為中に行動を制限されては困るので宿主の機能を一時停止させ自分達で身体を勝手に動かすのだ。


「―――キィィィッィイィ!!!」


突然、瑠璃が立ち上がった。
その顔は先程までの顔とは違い正気ではない。
体内のナノマシンの最後の足掻きだ。
瑠璃―――いや、瑠璃だった物は大きく跳躍しガルフに飛び掛る。
自身を活動させようと全身から武器を発生させ一斉に斬りかかる。
ガルフの服を彼の血が染め上げる。
体に大小さまざまな刃物が刺さり貫通する。


「―――戦ワセロ―――死ナセルナ―――」


刃物が深く、深く突き刺さる。
本能のままで動く物体は息を上げガルフの体の上で暴れる。
―――無様だな。
宿主が死んだのにも関わらず無様な死に様を見せる物体。
それは自然の摂理に反し、彼女の望んでいることではない。
体を振った。
すぐに物体を引き剥がし腹に蹴りを叩き込む。
物体はすぐに態勢を立て直し地面を蹴る。


「テメェはとっとと地獄へ行きな!!!」


体を何かが通った。
大きな銃声と共に腹に穴を空けその穴の中に銃身がめり込んだ。
身体は止まった。
ガルフは串刺しになった彼女から巨銃を抜き、「グッタリ」とした身体を支える。
―――殺して
それが夢の中で少女が言った言葉だった。
こうなる事が分っていて彼女は夢の中に出てきたのだろう。
そして現実でも彼女は自分が与えた最後の逃げ道に目も向けずここにやって来た。
それを彼女が心底望んだかわ分からない。
だが、最低でも結果は彼女が望むほうに進んだことは確かだ。


「・・・ガル・・フ・・・」


微かな声が聞こえた。
両手で出来抱えた紅き姫にガルフはそっと耳を傾ける。


「ありがと・・・これで・・もう意識を・・・・・失ったり・しない・・・」

「だな、これでお前が言っていた医療関係の勉強がゆっくりとできる」

「そう・・だね・・・・・これからはもっと・・・勉強・・・・しない・・・と・・・・」

「ならもう寝ろ、疲れてるんだから」

「じゃぁ・・・最後に―――」


瑠璃の口が力なく言った。
そして何かを待つかのように目を閉じる。
――――――!
唇に何かが合わさった。
暖かく優しいものが―――
時間が止まったように感じた。
もう、時間なんて関係無いただこうやって唇を重ねつづけたかった。


「・・・・・・」


ガルフは顔を上げ、少女を見た。
紅い髪を持った綺麗な姫は目を閉じ永久の休みについてた。
その身体はとても冷たく、先程までの優しい声は聞こえなかった。


「俺はこうなる事を恐れて戦うのか・・・」


潮風が吹きつけた。
空は青く、綺麗な月が浮かんでいる。
その下に黒と紅の男女。
男は月を見上げながらもう目覚めぬ姫をそっと抱きしめ見送った・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


――――――――――――――――――――――――――――

 

 

登場人物

 

 

名前:ガルフェエル=ノヴァ=レイジ
種族:バイオブースト

通称ガルフ。
何故か組織にいる漆黒の男。
組織の人間のほとんどが彼の事をあまり知らず、正確に知っているのは一部の上官クラスの人間ぐらいである。
「ナノマシン」と呼ばれる極小機械が体内におり、戦闘などに参加する生物を「バイオブースト」と言う。
非戦闘時はおとなしいのだが戦闘時になると体内のナノマシンを使い身体を変化させ、確実に任務を成功させる。
さらにガルフは通常のバイオブーストには無い能力を持ち、不明な点が多い。

 

名前:瑠璃
種族:バイオブースト

紅い綺麗な髪を持つ高校生。
普通の高校生として暮らしていたが身体のナノマシンの自己防衛機能により殺人鬼となっていた。
医療関係の仕事に就くのが夢だった。



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