題名無し


第2話


「KAISER VS DEMON」

 

 

 

 


連続して銃声が響いた。
周囲には血と火薬と臭いが交わり異臭を放っている。
そんな場所でガルフは連続してトリガーを引いた。
すぐに物陰に身を潜め、敵の位置を確認する。
腰に手を滑らせグレネードを掴む。
ジッポライターを開ける要領でピンを抜き、敵に投げつける。
それと同時に物陰から飛び出し銃を構える。
だが、グレネードの爆発と同時に居る予想していた敵はそこに居なかった。


「っぐ!」


腹部に衝撃が走った。
すぐさま足を浮かし蹴りを入れる。
だが、その攻撃は外れ敵は後方に跳躍した。
どうやら居なかったのではなく見えなかったようだ。
奇怪な姿を持つ人間とは呼びにくい者―――敵はそれを楽しむかのように笑っている。
愛銃を持つ右腕に力が入る。
いつものFNファイブセブンではない、巨大な自動拳銃だ。
地面を蹴る。
相手も釣られて同時に地面を蹴る。
敵はガルフの2倍に近い速さで接近してくる。


「甘いな!」


瞬時に左腕を前に出し。
敵の首を掴む。
地面に叩きつけ相手の動きを封じる。
一瞬の出来事に状況を理解できず敵は目をぱちくりさせている。
そんな彼の額にガルフの自動拳銃が突き付けられる。


「眠れ」


敵の敗因と共にガルフはトリガーを引いた。
今回、ガルフ任務でとあるゴーストタウンに来ていた。
上層部から理由はよく連絡されていないが、簡単に説明すると何処かの研究所の生物兵器が逃げ出したらしい。
ゴーストタウンのような万が一の事があっても被害の少ない場所はそういった研究所が多い。
数は約20体。
普段は任務に出ないガルフだがターゲットが生物兵器だと言うことでガルフは勝手に任務メンバーに参加した。
他の隊員からの連絡では今ガルフが倒したものを合わせて9体の破壊又は捕獲が確認されている。
先程の場所から数分歩いた場所。
ガルフは眼を閉じた。
敵の情報は常時持っている通信機から入ってきている。
残りの11体の内、3体は発見されたそうだ。
残り8体・・・動きを見せないのはそれなりの知能があるからだろう。


「東南1kmに1・・・北4km地点に1・・・嫌、2・・・」


バイオブーストの能力、というよりガルフ自身の勘がそう伝えてきた。
闘いで磨かれた勘が敵の些細な体温、呼吸、気などを感じ取り位置を把握する。


「ここに5・・・やけに多いな、生体反応が消えかけているヤツもいる」


ガルフは壁に手をやった。
古びた大型デパート、時間の経過を感じさせる程サビついている。
入口に破られた後は無いが居るのは確かだ。
居るのは2階に3体、3階に2体。
入口に回る。
数秒置いてから扉を蹴り破り、廃デパート内に入り込む。
静けさが広がっていた。
店内には商品を置く棚以外何も無い。


「2階に居るのは奇襲か・・・となると3階はリーダー格か」


地面を蹴り後方へ飛ぶ。
それと同時に天井が粉砕され3体の敵が落下してきた。
巨大な両腕を持つ一眼―――サイクロプス
背中にコウモリの翼を生やした―――ガーゴイル
灰色の肌をした細目―――グリムロック
神話を基に改造された人間―――生物兵器がそこに居た。
殺気は十分、どうやらこちらを敵を確認したらしい。


「掛かって来い、相手をしてやる」


ガルフは腰の大型拳銃を片手で構えトリガーを引いた。
その銃声を合図に前の3体は一斉に散った。
前、左、右の3方面から一斉に襲い掛かる。
ガルフは躊躇なく地面を蹴り正面のサイクロプスに狙いを定める。
巨大な豪腕が空を切った。
豪腕はガルフを狙い凄まじい勢いで直進する。
床を砕いた。
砕いた床の破片が飛び上がり弾丸のように飛び散る。


「無駄だったな」


跳躍し攻撃を除けたガルフはサイクロプスの巨腕に着地。
すぐに銃を構えサイクロプスの顔面に発砲する。
悲鳴が響いた。
弾丸はサイクロプスの眼に入り、出血を起こさせる。
貫通を予想していたのだが相手の意外な頑丈さにガルフの動きが鈍る。


「ぐっ!」


一瞬の隙を狙われ、横から衝撃を襲う。
宙舞うガーゴイルは初撃の命中を確認後、連続攻撃に発展させる。
ガルフは受身を取り相手を睨む。
すぐに地面を蹴り、飛翔、銃の巨大な銃身を使いガーゴイルを叩きつける。


「ギョ!」


悲鳴のような声が下から発せられる。
ガルフは容赦無くガーゴイルの口に銃を突っ込みトリガーを引いた。
鮮血と悲鳴が響き、1体の亡骸が出来上がる。


「!!!」


ガルフはすぐに地面を蹴りその場から引く。
場の空気を切り、豪腕がその場を叩いた。
先程まであった亡骸は潰れ地面の一部と化している。
ガルフはすぐに相手を確認した。
眼を失ったサイクロプスが巨腕を振り回し暴れている。
よく見ると眼の出血を止まっている、放っておけばすぐに完治するだろう。
腰からグレネードを取り出しピンを抜き握る。
乱暴に振り回される腕の間を抜けサイクロプス本体に接近する。


「ガァァァァ!!!」


眼に激痛が走った。
異物が入り込み何かを残し出て行った。
腕を振るうが当たった感覚は無く、空振りに終わった。
再度腕を振り、攻撃に入ろうとする。
―――爆発が起こった。
振り上げられた腕から攻撃が放たれることは無く、だらっと下に垂れた。
頭部が無くなったサイクロプスは大きく揺れうつぶせに倒れた。
残り1体。
だが、周りにその姿は無く気配さえなかった。


「逃げたか・・・」


嫌、そんなはずは無い。
相手は生物兵器、敵と見なした者は必ず倒す。
だが、バイオブーストの能力を使おうとも敵の位置は確認できなかった。
倒した敵は蝙蝠翼人―――ガーゴイル。一眼鬼―――サイクロプス。残るは―――


「そうか、グリムロックか」


最後の敵を思い出しガルフは納得した。
グリムロックは目は見えないのだが、かわりに聴覚や嗅覚が発達していて、敵の気配を感じることが出来る。
さらに自分の気を隠し完全に身を隠す事ができるのだ。
つまり攻撃は一方的に相手が優勢だ。


「厄介だな・・・が、殺し方はある」


ガルフは大型拳銃を両手で掴み下に構える。
そして意識を集中させ周囲を感じ取る。
石造の様に立ち尽くし、場と同化し、自然と一体になる。
何も無い、誇りの臭いが立つ、無臭の部屋に沈黙が広がる。
無音―――一切音が無い時間が経過する。


「そこか・・・」


銃を構えた。
何も無い店内の奥に銃口を向ける。
トリガーのゆっくりと指が掛かり、トリガーを引き寄せる。
―――場が歪んだ。
周囲に同化していた何かが倒れ、元の色に戻る。
だが、致命傷には至っておらずグリムロックはその場でもがいている。
そんな生物兵器にガルフは近づき、脳天に銃口を突き付ける。


「気は消せても体温が残ってたら何の意味の無いな」


銃声と共に灰色の皮膚が深紅に染まった・・・
敵の活動停止を確認するとガルフは大型拳銃に弾丸をリロードした。
残りの敵は2体、これぐらいの力量なら勝てる。
銃のリロードを完了し、軽く息を吐くと店内の階段を探す為首を回した。


「!!!」


衝撃が建物を揺らした。
柱が軋み天井から誇りが落ちる。
再度衝撃が建物を揺らし1階の天井が崩れ、何かが降って来た。
ガルフは瞬時に銃を構える。
だが、そこには意外な展開が広がっていた。
生物兵器の死体、それが落下してきた天井の上に張り付いていた。
心臓を抉られ、全身を深紅の血で染めた生物兵器の死体が。
しかも、2体。
3階に居た生物兵器が2体とも殺られているのだ。


「戦闘中に誰か入って来たのか?」


不覚な話だが戦っている間に自分以外の誰かがデパートに入っていたらしい。
生物兵器の倒しからしてかなりの凄腕だ。
3度目の衝撃が建物を揺らした。
どうやら目の前の2体をこんな姿にした奴が降りてきたようだ。
2体の死体をクッションにそれは現れた。
―――息が止まった。
一瞬にして空気の重さが変わり、地面に伏せそうになる。
現れたそれは異様なほどの殺気を纏い、自分の前にいる。
赤き弱者の血で染まったコートが血臭と殺気を合わせた気を放ち、自分に死を感じさせる。


「ほぅ・・・異物がまだ残っていたか」

「違うね、俺は捕食者でそいつらは獲物。生物兵器としての質が違う」


そいつが喋るだけで体が引ける。
一瞬でも気を抜けば瞬時にそこの亡骸の仲間入りになりそうな・・・そんな気分だ。
そいつはクッションされ無残な姿になった亡骸から身を下ろし地面に足を着けた。
これほどの奴なら戦闘中でなくとも自分は横に居ることさえ気づかないだろう。
奴は俺の後ろの3体の亡骸を見て再度こちらを見る。


「汝、かなりの力量と見たが・・・」

「アンタ程じゃない、ただそいつらが弱かっただけさ」


拳に力が入る。
手から血が溢れ、滴り落ちる。
相手はやる気だ。
1秒1秒殺気が増し、敵意が表れてくる。
殺される―――ここで退いたら間違えなく死ぬ。


「解っているようだな」

「ああ、DEAD OR ALIVEだろ?」

「先に聞いておこう。我が名はレブラント、汝の名は?」

「ガルフ・・・ガルフェエル=ノヴァ=レイジ」


空気が変わった。
戦闘時の空気でもレブラントが現れた空気でもない・・・強者のみが感じ取れる空気が・・・
―――レブラントが動いた
人間とは思えない素早さで腕が飛びガルフの腕を捉える。
ガルフは身体をずらして発砲しそれを回避する。


「ちっ!」

「まだまだだな」


レブラントの膝がガルフの腹を抉った。
肉体に激痛が走り胃酸が逆流する。
さらに銃を捕まれ、尋常ではない握力でそれを破壊される。
すぐに脚を浮かしレブラントを蹴飛ばし間合いから離れる。
どれだけ凄まじいダメージなのか・・・体内のナノマシンが腹部に集中している。
内蔵と肋骨が数本と言ったところだ。


「人なら死んでいるのだがな・・・」

「生憎、俺はバイオブーストでね。人よりは頑丈なんだよ」


すぐに腹の痛みは消えた。
身体全体のナノマシンが活性化し肉体を戦闘用に近づける。
肉体が叫ぶ。
相手を―――レブラントを殺れと。
地面を蹴る。
腕を軸に脚を回し相手の脚を狙い扱かす。
同時に腕を掴み、片腕でレブラントを投げ飛ばす。


「これがバイオブーストと言うものか・・・」

「嫌、これからが本番が今のは肩慣らし」


顔がにやける。
―――楽しんでる?俺が?奴と殺り合う事を?
投げ飛ばしたレブラントはすぐに立ち上がり接近してきた。
人間ではないものが瞬時に接近しガルフをきりさく。
レブラントの爪がガルフの服を皮膚ごと抉る。
ガルフはすぐに相手の顔面を蹴り鉄拳を放つ。
バイオブーストの力をフルに使い、神の猛打を繰り出す。


「キサマ本当に人間か?」

「人だ・・・鬼と呼ばれたこともあるがな」

「鬼と呼んだ奴も間違っちゃいないな」


2人は笑った。
―――黒は赤
―――赤は黒
両者は両者を求め合い、地獄の惨劇を望む。
黒き閃光と赤き閃光が血に餓え、殴り合い、凄まじい気の乱れがその場に起こる。


「くたばれ鬼!!!」

「黙れ生物兵器が!!!」


お互いの腕が、拳が、脚が互いを叩き、掴み、殺しあう。
肉を裂き、骨を断ち、血を吸い、互いの欲が餓え癒す。
殺られては殺り返し、殺り返しては殺る。
2匹の魔物が互いの技を駆使し場を荒地に返す。
―――柱が砕けた。
1階を支えていた柱が崩れデパート事態が崩壊を始める。
だが、2匹の魔物は互いの牙を相手に突き刺す。
退く事は無い。
退けば負け、その場で闘いは終わる―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 


廃デパートは完全に崩壊し瓦礫の山に変わった。
そしてその場を元からそうであるかのような静けさを持つ。
そんな瓦礫の中央に彼が立っていた。
深紅のコートが汚れ、完全にボロと化している。


「久々に闘ってる実感がした。礼を言う・・・」


レブラントはそう言った。
それを聴いてか瓦礫の山が崩れ、その中から漆黒の男が現れた。
片腕は無く、身体も動きそうに無い。


「っち、ナノマシンがオーバーヒートなんて・・・最近怠けすぎたな・・・」


ジョーク雑じりに無理やり口を動かす。
身体の感覚は全く無く、生きている心地がしない。


「今度合う時は決着をつける」

「今度は大豆と柊と鰯を用意して闘ってやる」

「っふふ・・・」


微笑を最後にレブラントは消えた。
あの調子では近いうちにまた来て幾度と無く闘う破目になるだろう。
正直遠慮したい、毎回身体がこうなっては持たない。


『―――フ、ガルフさん―――3B地区の建物が崩れました大丈夫ですか?―――』


通信機から通信が入った。
あれだけの戦闘でよく壊れなかったと自分で思う。
麻痺している腕に鞭を打ち通信機のスイッチをONにする。


「こちらガルフ、ターゲット5体の破壊を確認。深手を負った為救護班を頼む。場所はさっき崩れた建物、動けそうに無い。」

『―――わ、分かりましたすぐに向かわせます―――』


そう言うと通信は切れ『ザァー』と言う砂音だけが聞こえる。


「っち、瓦礫の山から腕を探さないとな・・・」


そうぼやくとガルフは大空の下で大きく倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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登場人物

 

 

名前:ガルフェエル=ノヴァ=レイジ
歳 :不明
種族:バイオブースト

通称ガルフ。
何故か組織にいる漆黒の男。
組織の人間のほとんどが彼の事をあまり知らず、正確に知っているのは一部の上官クラスの人間ぐらいである。
「ナノマシン」と呼ばれる極小機械が体内におり、戦闘などに参加する生物を「バイオブースト」と言う。
非戦闘時はおとなしいのだが戦闘時になると体内のナノマシンを使い身体を変化させ、確実に任務を成功させる。
さらにガルフは通常のバイオブーストには無い能力を持ち、不明な点が多い。

 

名前:レブラント
歳 :不明
種族:人間

通称鬼、又は鬼の豪腕。
今回、成り行きでガルフと闘い引き分けに終わる。
身長は2mを越え、片腕で人間を切裂くことができる。
作者的に「鬼い(=おにい=お兄)」と呼びたいマサルさんのキャラ。



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