FULL MOON MIRROR NOVEL

THE STER FESTIVAL'S NOVEL


■妹たちの場合■

「ギャーギャー」と賑う中で隊員たちは紙と筆を持ち各々の願い事を書いていた。
時は7月7日、世間で言う七夕の日はここ組織万華鏡にも影響を及ぼしていた。
事の発端はあの陽気なボスがどこから持ってきたのか巨大な竹を庭に植えた事に始まり、「全員短冊を書きやがれぇ!じゃないと30%減給だ!」なんて言う職権乱用に近い言葉で短冊の制作を命じたのだ。
当人曰く「行事は皆で楽しむもんだろ」らしいが隊員ほとんどはボスの気まぐれである事を十分理解していた。

「ねぇ、マヤはなんて書くの?」
「ん〜どうしようかな?」

短冊を目の前に妹が頭の悩ましていた。
聞いた少女の方は既に書きあがったようで完成した短冊をブンブンと振り回している。
「なんだ?まだ書けてないのかよ」と、どこから出て来たのか同じみの棒人間が横から顔を出す。
どうやらこのメンツの中で妹だけは無記入のようだ。

「ジョニーは何て書いたの?見せっこしようよ♪」
「おお、いいぞ。見て驚け、これが俺様の短冊だ!」

「ジャ〜ン」と自分たちで効果音を言いながら短冊を突き出す棒人間と少女。
青色の短冊には『世界が俺様に平伏すように byジョニー』と、山吹色の短冊には『背が大きくなりますように byアユ』と書かれていた。
どちらも分かりやすい内容である。

「どうした、決まらないのか?マヤ」
「あ、セシル。うん・・・お願いって何をしたら分からなくて」

二人の事を他所に頭を悩ます妹にそっと声を掛けてみた。
妹の顔は真剣でどうやら『本当』に願い事が分からないようだ。

「セシルは何をお願いしたの?」
「いや、俺はまだだよ。書くとしたら・・・そうだな・・・『世界が平和でありますように』かな?」
「え、そんな事でいい?」
「そんな事でいいんだよ、願い事なんて。願うのは個人の自由だからな、マヤのしたい事を書けばいい」
「私の・・・したい事?」
「アユみたいな個人的なものから、果てはジョニーの独裁的願望なんかまで。明日の定食のデザートを豪華にしてほしいなんてのもありだぜ」

そこまで言うと妹は何かを考え込んだ後、サラサラと筆を動かした。
本人が顔を真っ赤にして何を書いたかは教えてくれなかったが、それなりに意味のある願いなんだろう。
何故かそう思った。

 

■同僚と後輩たちの場合■

「あ、セシル。お帰り」

外から帰ってくると同僚と後輩の二人がロビーで寛いでいた。
自分もそれに便乗し、同僚の隣へと座る。
 
「ボスの事もあるんだろうけど、皆楽しんでますね」
「だね、私もリュッケくんと入れて楽しいよ♪」
「俺もだよ、ロッテ♪」

目の前の光景が目に痛く、同僚に助けを求めると「いいじゃない、こういうのも」と、見事に流されてしまった。
ふと、机に置いてあった短冊を見ると『ロッテを守れる男になれますように byリュッケ』『いいお嫁さんになれますように byロッテ』なんとも言いがたい事が書いてあった。
本人たちがいいのなら問題はないが、個人的にはできれば公の場には出してほしくないものだ。

「いいじゃない、別に変な事じゃないんだから」
「そうは言うけどなイク・・・お前と違って俺はそういうのに不慣れなんだよ」

同僚はこういった状況を楽しんだり弄ったりする変な癖がある。
例として上げるなら医療班の一人、彼はほぼ同僚の玩具状態に遊ばれている。
「そう言えばお前は何書いたんだよ?」顎で短冊を指し同僚を見ると「フフ〜ン」という笑みでこちらを見る。
何か嫌な予感がしたが思い当たることが無く、ただ回答を待つ。

「な・い・しょ♪」
「なんだよそれ、人を期待させといて」

「期待して損した」と、溜息をつく。
当然の如く気を完全に抜いた状態では、横から来る暖かい眼差しに俺は特に気づきもしなかった。

 

■半獣人と少年の場合■

夜風の流れる屋上。
いちいちそんな場所に足を運んだのは祝い事などに大はしゃぎする奴が会場に見あたら無かったからだ。

「おい、いるか〜」

屋上をぐるりと見渡してみると庭側の方に黒い集団がいた。
茶や白、黒など様々な色をしたそれらが猫の集団だと気づいた。
その中央に人型の影が二つ、どうやら自分以外にも来客があったようだ。

「こんなところで何やってるんだ?リン、アキ」
 
声を掛けると同時に二人(+数十匹)は振り返り自分を確認した。
一人は猫耳の少女、もう一人は少女のような感じの少年である。

「あれ?セシル。さっきまで下にいなかったっけ?」
「祭り好きの誰かさんが会場にいなかったら様子見に来たんだよ。ま、どうやら邪魔者のようだが―――」
「ちっ!違いますよ、セシルさん!!僕は単に子猫の様子を見に来ただけでべ、別に!」

「子猫?」と、首を傾げて見せると少年の膝の上に前足に包帯を巻いた子猫がいた。
どうやらが数日前に少女が怪我をした子猫を見つけ、それを医療班の一員である少年が相談され治療に当たっていたようだ。

「で、こいつらはいったいなんなんだ?」
「んっとね〜今日は月が綺麗だから皆でお月見しようと思って」

普通なら秋にするものなのだが、彼女たちの感覚では月が綺麗ならいつでも月見になるらしい。
このメンバーに少年がいるのは子猫の検診兼、少女に誘われての月見なんだろう。

「あ、そう言えば短冊は書いたか、リン?」
「うん♪『子猫が早く良くなりますように』って書いたよ」
「アキは?」
「僕は『みんながいつも健康でいられますように』です」

にこやかに言う二人のせいでつい表情が緩む。
夜空には青白い満月と幾多の星が連なる流れ星。
二人と猫たちの祭りは、七夕とは別に楽しい宴のようだった。

 

■大人たちの場合■

「入ります」

一礼して入った部屋には既に四人の住人がいた。
この部屋の主であるボスはグラスを片手に顔を赤らめ、ハイになっているのが一目瞭然だった。

「なんだ、セシルじゃなか。どうした?お姉さんに射止めて欲しいのかい?」
「冗談言うのは止めてください、ネルさん。ただでさえそれで前回大変だったんですから」

「そんな事あったっけ?」白衣を纏った長髪の女性はケラケラと笑い出しグラスの酒を飲み干した。
床には殻になったボトルが数本・・・どうやらかなりの飲み会になっているらしい。

「大丈夫だ。ま、なにかあった場合は俺がなんとかする」

と、集団に紛れて酒を楽しんでいる同僚の一人。
サイボーグに近い存在の彼にはアルコールは効かないようで全く酔っていなかった。
曰く「ナノマシンで即に分解してるんだよ」らしく、ボスたちの事もあり監視役に徹しているそうだ。

「俺がって、ブラックさんもいるんじゃ」
「セルゲイは駄目だ、リズの事で消沈してる」

指された同僚の指先を見るとボトルの山に囲まれた男がいた。
変わり辛いがかなり酔っているらしく、ボスに煽られ無茶な酒の飲み方をしている。
いつもは冷静で何事にも動じなさそうな彼だが、娘の事となると仲間内で度々こういった姿を見せるらしい。

「ヘイ、セシル〜お前も飲めぇ〜!」
「飲めって・・・ボス、俺未成年ですし」
「硬い事言わないの。お姉さんが飲ましてあ・げ・る・か・ら♪・・・ね♪」
「ね♪て、ネルさん、顔を近づけ・・・!?ぼ、ボス、抑えないでくださっ!―――」

二人の強豪に必死の抵抗も虚しく、自分は見事に赤子状態だった。
無理やり飲まされたアルコールは・・・場合が場合なだけに味わってる暇もなかった。
その後、当人の記憶は無いが、この部屋にもう一人の住人が生まれたのは言うまでも無い。

「片付ける人数が一人増えたか・・・」

 

■混沌と鬼人の場合■

青白い光を放つ満月の夜、黒い外套の青年が空を見上げた。
今日はベガとアルタイルが幾多の星の川によって繋がるとされる日。
そんな日に起こる満月は神秘的とも取れ、また逆に何かの前触れを知らせる警告とも取れた。

「珍しいな、こんなところで」

空を見上げたまま男は言う。
周囲には蟻の子一匹もおらず、無風で何の音も無い。
誰もいない筈の場所、だがソイツはそこにいて黒い外套に見つけられてしまった。
「ばれてしまっていては仕方が無い」そう言う感じで2メートルはあろう赤い外套が闇から現れる。

「月に誘われてな、主が此処にいると分かった」
「さすがに俺は月まではコントロールできないぜ。あれは月の王のもの、俺の手のとどくものじゃない」
「だが、月が我を導いた。その事実になんの変わりはない」

空から視線を外し、赤い外套を見る。
既に赤い外套は紅蓮の氣を纏っており、鬼人として男の前に立っていた。

「悪いが適当に逃げさせてもらうぜ。アンタと遣り合うと体に響くんだ・・・レブラント」
「今度こそ貴様を亡き者にしてくれようぞ混沌・・・いや、ノルヴィス!」

二つの閃光が闇を駆ける。
両者は牙を剥き出しにし、本能にままに襲い掛かる猛獣のようでもある。
今宵は満月、あの満月はきっと何処かの白い性悪姫の悪戯に決まっている。
が、愚痴を言っても始まらない。今は目の前の鬼人をどう躱すかを考えよう。

 


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