KALEIDOCOPE NOVEL

SESIL'S STORY

 

 

 

 


幼い頃、僕は戦場に居た。
理由は分からない、だがその場にいるからには戦わない訳にはいかなかった。
己が身を守る為に銃を手に取り僕は戦場に立つ。
ここには人と呼ばれる生物の黒い部分が溢れ返っており血や火薬の臭いが絶えなかった。
乾いた銃声が快晴の空に響く。
緑髪の少年は手にしたイングラムM11の銃口を敵に向けた。
敵は中年中肉の男で手には拳銃を持っている。
トリガーを引く。
だが男は遮蔽物に逃げ込みそれを凌ぐ。
それを確認し自分もすぐに遮蔽物に隠れる。
インビジブルブロック、それがこの区域の名前だ。
ここは昔グランドゼロがあった区域の1つで廃墟の遮蔽物が無数にある。
遮蔽物の陰か男が発砲し少年が背にしている壁に当たった。
狙いは正確なようで壁の端に着弾している。
ポケットから灰色のパイナップルを取り出しピンを抜く。
すぐに相手の遮蔽物の陰に投げ入れイングラムを構える。
すると男は遮蔽物から飛び出しイングラムの軌道上に入ってきた。


「フェイクだよ」


無表情な顔でトリガーを引く。
同時に銃弾の嵐が男を襲い元々人間だったそれを蜂の巣に変える。
蜂の巣になった人は肉塊となり地面にへばりつく。


「これだけは慣れないんだがな」


肉塊が付けていた首輪に手を掛けながら少年は言った。
この首輪はデジタルロック式で適合した開錠カードでしか外す事ができない。
開錠カードなんてものは持っていないし、有ってもすでに処分されているだろう。
だが後1つだけ取り外す方法がある。
方法はいたってシンプル、装着者の首を飛ばすだけだ。
少年は足首のホルスターから大型ナイフをゆっくりと引き抜く。
肉塊から再度鮮血が吹き出した。
それと同時に首輪は取れそれをポケットに突っ込む。


「あと4人・・・」


ナイフの血を拭い去ると少年は風の様にその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


幼い頃、僕は戦場に居た。
理由は分からない、だがその場にいるからには戦わない訳にはいかなかった。
己が身を守る為に銃を手に取り僕は戦場に立つ。
ここには人と呼ばれる生物の黒い部分が溢れ返っており血や火薬の臭いが絶えなかった。
乾いた銃声が快晴の空に響く。
緑髪の少年は手にしたレミントンM870の銃口を敵に向けた。
敵は初老の老人、手には突撃銃、腰に小ぶりの斧を装備している。
老人は先制でトリガーを引きこちらにトリガーを引かせない。
すぐに遮蔽物に隠れコンクリートの壁に背をつける。
老人の放った銃弾が遮蔽物にぶつかりその振動が背中越しに伝わってくる。
ポンプアクションを行い初弾の弾丸を排出、次弾を装填する。


「―――!!!」


遮蔽物を飛び出し連続でポンプをスライドさせ弾丸を吐き出させる。
広範囲を撃ち抜くレミントンの射撃が他の遮蔽物を破壊すると同時に破壊老人の動きを抑える。
遮蔽物が破壊され、砂煙が大きく舞い上がった。
互いに視界は零になり行動が限定される。
狂ったように老人が突撃銃を振り回す。
少年が居た場所から考えられる移動範囲への乱射を行なう。


「!!!―――・・・」


鈍い音が聞こえた。
一瞬、視界が90度捻じ曲がり同時に意識が消し飛んだ。
老人の体は崩れ落ちしわついた皮膚の屍になった。


「・・・・・・」


凶器に付いた血を拭いながら少年は屍を見つめる。
レミントンで頭部を殴られた老人の首は奇妙に捻じ曲がり口から血が垂れ流れていた。
老人に銃口を向ける。
乾いた発砲音が響き老人の頭が粉砕された。
目的である首輪は赤黒く染まり、持ち主の死を確実に知らせてくれた。


「あと3人・・・」


首輪をポケットに押し込み少年はその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


幼い頃、僕は戦場に居た。
理由は分からない、だがその場にいるからには戦わない訳にはいかなかった。
己が身を守る為に銃を手に取り僕は戦場に立つ。
ここには人と呼ばれる生物の黒い部分が溢れ返っており血や火薬の臭いが絶えなかった。
乾いた銃声が快晴の空に響く。
緑髪の少年は両腕に手したIMIデザートイーグルを発砲しすぐに走った。
その後ろを2つの影が宙を舞い、追跡する。
恐らく敵の武器はアサルトライフルとグレネードランチャー、それにセミオート拳銃。
不意に現れた敵に少年は一先ず逃げる道を選んだ。
敵の位置と武器等の情報が得られなければこの戦場では明らかに不利だからだ。
乾いた連射音が響き少年の足元に当たる。
すぐに崩壊しかけの家へ飛び込むが待ってましたと言わんばかりにグレネードランチャーが家を標準に入れた。


「何!?」


崩壊しかけの家だった為か家は原型を留めぬままに廃材の山となった。
沈黙がその場に降り注ぐ。
敵の動きが無い事を確認し2つの影はゆっくりと倒壊した家へと近づく。
足で瓦礫を払い除けながら獲物の首を捜し求める。


「―――!」


瓦礫の山が突然盛り上がった。
そこには獲物だった少年が両腕を上げていた。
足元には武器であるデザートイーグル、どうやら降参するつもりらしい。
だがそれは無意味な話だ。
敗者は勝者に首を狩られる、敗者には死しか無いのだから。
アサルトライフルの銃口が少年の頭部に向けられる。
そしてもう1人が彼に近づき地面に置いてあるデザートイーグルを拾いに行く。


「―――!!!」


小さな発泡音が場に響いた。
同時に銃を拾いに来た敵は頭部から血を流し地面へと倒れる。
残った敵は訳が分からず慌てふためき周囲を見回す。


「武器が置いてあるからといって相手の武器がそれだけとは限らないぜ」

「!」


気付いた時には冷たい銃口が背中に当てられていた。
いつの間に動いたのか少年は敵の後ろに回り置いていたデザートイーグルとは別の銃を構えている。
デリンジャー。
主に袖などに隠して持ち歩く隠し銃として扱われるもので、暗殺やこういった切り札などに使用される銃だ。
少年はデリンジャーを袖に隠し持ち、銃を拾いに行き無防備だった仲間を撃ったのだ。
考える間もなく2発目の銃声が鳴った。
敵の心臓を撃ち抜き、死亡を確認するとナイフを取り出し頭を持ち上げる。


「これで・・・あと1つ――――!!!」


衝撃が少年を貫き彼の手を止めさせた。
少年が振向くとそこに最後の獲物が姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


男は実験を見るためにこの場所にいた。
実験とは軍が行なっているもので国内各地から集められた者による戦争。
賭けるのは互いの命。
敵の首に設置されている首輪を5つ集める事で抜けられる簡単なゲームだ。
生き残った者は軍の特殊部隊に編入され兵士としての特別訓練を受けさせられる。
どちらにしても自由は無い。
結局軍の玩具として扱われるのなら今ここで死んだほうがマシかもしれない。
そんな実験の参加者の面をなんとなく拝みたくなって男はこの場所に立っている。


「クソッ!!!」


先ほど撃った少年が立ち上がった。
腹部からは血が流れ出し傷口を押さえている手も赤く染まっている。
容赦無く支給されたH&K MK23ソーコムピストルのトリガーを引く。
少年が持っていたデリンジャーを吹き飛ばし、続けて両肩と両桃を撃ち抜いた。
鮮血が飛び散り周囲に血の花が咲く。
少年は害虫のように地面にへばり付き、怒りの目線を向けてくる。


「恨むなよボウズ、恨むんならテメェの運命を恨みな」


男は躊躇わずトリガーに指を掛けた。
少年は怒りの目を向けたまま男を睨みつける。
空は快晴、最後の銃声が鳴ったのは少し後の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


銃声が鳴った。
飛び出した弾丸は相手の額に当たり顔面を赤く染める。
勝利した男―――イシザワはソーコムを収め軽く息を吐く。


「たく、少しは上達したと思ったら・・・そんなんじゃ俺は越えられないぜ」

「ボスが強すぎるだけですよ」


イシザワの愚痴に顔が赤く染まったセシルが返した。
セシルは顔についたペイントをタオルで拭い取り身軽く立ち上がる。


「あの日と比べたら幾分マシになったな」

「あの時俺子供でしたから」


セシルは笑いながら答えた。
手に火薬とガンオイルの臭いが染み込んだ少年、その少年を倒した男。
あの時男は引き金を引く瞬間、方向を変え少年ではなく空を撃ち抜いた。
理由は分からないが男は少年を殺さず、少年は生かされた。
その代わりに少年は男の創設した組織の一員となり彼の手足となる事を約束させられた。


「ほら、もう一戦やるぞ。今度は負けた方が女湯直行だ!」

「え!?ちょっとそれは・・・」

「問答無用、勝てばそれまでだ!!!」

「ぼ!ボス!?」


幼い頃、俺は戦場に居た。
理由は分からない、だがその場にいるからには戦わない訳にはいかなかった。
己が身を守る為に銃を手に取り僕は戦場に立つ。
そこには人と呼ばれる生物の黒い部分が溢れ返っており血や火薬の臭いが絶えなかった。
だが、俺はイシザワに負けて今では幾分マシな生活を送っている。
この変態親父についていくのは多少・・・大変、心配だが辛くは無いだろう。
現在俺は組織「万華鏡」に居る。
ここには戦場ほどの生臭さは無く、己の思念を貫きながら仕事をしている。
手に染み込んだ血と火薬の臭いは消えないが問題は無いだろう。
例えあったとしても今の俺はそれを乗り越えられる、そんな気がする。


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